日本で「予防」がなかなか普及しない理由
予防医学が進んでいるのはアメリカです。それにはいくつか理由がありますが、一番大きいのは医療費が猛烈に高いということです。風邪でクリニックにかかるだけで数万円かかりますし、病院で手術するようなことになったら100万単位の金額になります。薬代もとても高い。
下手をすると高額な医療費で破産してしまう社会なので、自分の健康を守るには自分で動くしかない。「困ることになる」度合いが強いから、予防に熱心にならざるを得ないわけです。たとえばアメリカの医療保険においては、「ディジーズ・マネジメント」といって、民間の保険会社主導で疾病予防のための働きかけを積極的にやっています。
一方、日本は優れた国民皆保険制度を有しています。万人がそれほど高くない負担額で、一定の医療サービスを受けられる。そのこと自体は素晴らしいことです。
ただ、この制度が、日本で予防医療が普及しない一因になっている側面もあります。たとえ糖尿病になってしまっても、自分が負担する医療費は3割で済む。さらに収入に応じた上限額もあります。「日本はちゃんと国が面倒見てくれるから大丈夫でしょ、保険があってよかったな」という意識がみんなどこかにあるのです。予防は大事、重症化するのをいまからきちんと予防しようといっても、アメリカのように危機感を持っていないのです。
健康への意識が低い人ほどリスクが高い
もう一つ、日本で予防に対してインセンティブが働かないのは、「予防はまだ病気ではない」という位置づけのため、そのほとんどが医療保険の対象にならない、ということもあります。
つまり、予防に対しては全額自腹を切らなくてはいけない。「病気はかかる前に防ぐべし」といわれても、医療保険の対象にならないことを積極的にやろうという気になりにくいのです。
そもそも健康への意識が高い人は生活習慣病にあまりかかりません。日ごろ自己節制の利かないタイプの人ほどリスクが高い。これが現在の日本の状況です。「日本人は医療リテラシーが低い」というのは、こうした現状から見てもよくわかります。