現在、車道には「自転車」「スクーター」「バイク」という二輪車のほか、よりスピードが速く殺傷力も高い自動車たちが走っており、容赦なく電動キックボードを追い抜き追い越していくことになる。

特に昨今、このコロナ禍で需要を伸ばしているフードデリバリーの自転車が多く走っており、今後は自動車による二輪車・電動キックボードの追い抜き・追い越しだけでなく、「道路左側組同士」による追い抜き・追い越しも増えるだろう。

そうなれば、電動キックボードに乗っている人自身が事故を起こさなくても、自分が原因で周囲が事故を起こすことも出てくる。

今回、実際にキックボードに試乗してみると、「ママチャリ」を含む多くの車両に追い越された。自転車とは、クルマ以上に距離感が近くなる。彼らが音もなく追い越しにくるたび、緊張が走った。

一方、渋谷の交通量や路駐の多い大通りを走った際、追い抜いていく瞬間に必要以上にエンジン音を上げていくクルマからは、ドライバーのイライラがひしひしと伝わってきた。4トントラックに追い越された時は、その圧迫感と音に一瞬目をつぶりそうにもなった。

画像提供=筆者
電動キックボードで代々木公園周辺の車道を走る筆者。追い抜く瞬間に必要以上にエンジン音を上げる自動車もあった

車道は“気軽”に走る場所ではない

<2.任意になったヘルメット装着>

この電動キックボードで、速度以上に懸念されるのが「ヘルメットの着用が任意」になったことだ。今回、事業者がヘルメットを任意にしたかったのには、おそらく「シェアの難しさ」が背景にあるのだろう。

本体そのものは他人とシェアできても、誰がかぶったのかも分からないヘルメットまではシェアしにくい。特にこのコロナ禍、これからの季節にヘルメットを共有するのはかなりの抵抗がある。自前ヘルメットの用意を利用者に求めれば、売りにしている“気軽さ”が落ちる。事業者はその障壁を避けたかったはずだ。

しかし自動車、とりわけ大型車を運転する側からは、車道は“気軽”には走ってほしくない。

殺傷力の高い大型車のドライバーたちには、たとえ相手のほうに大きな過失があったとしても自身が現行犯逮捕・実名報道される事例が過去にいくつもあるため、“気軽”に乗られてはたまったものではない。

今回、多くの利用者に倣い、筆者も安全に配慮しつつノーヘルメットで走行してみたが、生身の体で車道を走るすべての乗り物は、むしろヘルメット着用の義務化を進めるべきであり、交通事故を減らしていこうとする世の動きに逆行したうたい文句には全く賛成できないと改めて感じた。

自転車と比較にならない“不安定な重心”

この電動キックボードが、ヘルメットを任意にして車道を走ってはいけない理由は、ほかでもない。「危ない」からだ。車道を人が立った状態で移動するのは、あまりに「不安定」なのである。

画像提供=筆者
ヘルメットなしで自動車の前を走る電動キックボード

中でも筆者が気になったのは「荷物」だ。

5月上旬、実証実験の様子がメディアで頻繁に取り上げられていたが、実際乗っている人たちを見て大きな違和感を覚えた。ほとんどのケースで「荷物」を全く持っていなかったからだ。