「無差別殺傷で、女の犯人っていないでしょう」

「無差別に人を巻き込む人は、ルサンチマンというか劣等感はすごいですよね、みなさん。無差別じゃないけど、『野田市小4虐待死事件』の勇一郎さんも、自分の親をすごく尊敬しているんですよ。4人家族でマイホームを買って……という生活をすごく当たり前で最低限の幸せと彼は考えている。

けど、現実は全然そうはいかなかった。収入も少ないし、妻は精神障害で暴れるし、子どもはなつかない。最低限と思っていることが何もできなくて、劣等感はすごくあったと思うんですよね」

勇一郎の場合、一人で子育てをしていたという経緯がある。仕事もして、子育てもして、収入も少ないとなれば、立ち行かなくなるのは当然だが、彼はサポートを受けることなく劣等感をつのらせていた。なぜ、サポートを受けなかったのか?

児童相談所が介入し、虐待が明るみに出れば、父としての未熟さが浮き彫りになり、プライドを傷つけられると感じていたのだろう。そこには男性特有のヒエラルキーの意識を感じる。

「無差別殺傷で、女の犯人ってほとんどいないでしょう。男ですよね、やっぱり。劣等感とか、勝ち負けとかのヒエラルキーがはっきりするのが男のような気がしますね」

(*編集部注)法務省の調査「無差別殺傷事犯に関する研究」によると、調査対象となった52名の無差別殺傷犯のうち、ひとりを除いてすべて男性である。

殺人犯だと疑われる独身男性

確かに、男性に比べると、女性の人生は柔軟にならざるを得ない。仕事をしていても女性という理由で出世できないこともある。かと思えば結婚によって大飛躍をする人もおり、その逆の人もいる。自分の努力と関係ないところで、勝ち負けがいかようにも変化するのが女性なのではないだろうか。一方男性は、学歴と収入があれば、すべてが手に入る、というようなシンプルな構造がある。

「私が学生や新卒だった頃は、男尊女卑が強い世代だったので、逆に女性はあんまりプレッシャーをかけられなかったんですよ。同世代の男の子って、すごくプレッシャーまみれというか、普通から外れたくないっていう意識は強いですよね。未だに地方では、独身男性だと就職もできない。家庭がある人のほうが責任感が強いとか、悪いことをしないという偏見がある」

しかし、そんな世間のイメージとは裏腹に、阿部氏の著書には、既婚者が起こす性犯罪の事例がたくさん出てくる。家庭を持っているから「まとも」というのは、幻想でしかないということがわかる。2018年に起きた「新潟小2女児殺害事件」では、新潟市の小学2年生の女児が誘拐され、わいせつ行為をされたあと、線路に死体遺棄された。このときの捜査にも「まとも」への幻想があったという。

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「最初に疑われたのが、そのあたりで唯一の独身男性だったっていうの。それも田舎『あるある』だと思うんですよね。だから未だに雪国のほうはすごいと思うよ。青森県出身の加藤智大も、ヒエラルキー意識の強い親に育てられているじゃないですか。青森で勉強ができないと、やれることがないしね。だから傷だらけだと思います。傷だらけだったんじゃないですか」