「あんた叔父さんの奴隷? 見損なったわ」

ところが、こんなに無理をして遠距離介護をしても、母親はもう、市原さんが自分の娘だということがわからなくなっていた。

「なかなかハードな生活でしたが、帰宅すると夫が夕飯を作ってくれて、娘たちは勉強や部活など、自分たちの生活を淡々とこなしてくれていて、わが家が落ち着いていたことが、一番ありがたいことでした」

介護を始めて1年ほど経つと、叔父は体力的に厳しくなってきたらしく、妹(市原さんの叔母)たちに、「時々来て、姉ちゃんの話し相手になってやってくれ」と助けを求めた。叔母たちは時々は来てくれるようになったが、叔母たちにも家族や生活があるため、頻繁には来られない。だんだん叔父は、「薄情だ」といら立ち、叔母たちと険悪に。叔父は叔母たちからの連絡を一切無視するようになってしまう。

そんなある日、一番下の叔母から市原さんに電話がかかってきた。子供の頃、実家で同居していたあの叔母だ。叔母は、「あんたたち(市原さんと市原さんより2つ下の弟)がちゃんと介護しないから、私たちが絶縁状態になるのよ! 女一人で育ててくれたお母さんに恩返ししなさいよ、この親不孝者!」と一気にまくしたてる。

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市原さんは、弟が介護を拒否したこと、母親を関東に呼び寄せようとしたが、叔父に反対されたことなどを話した。すると叔母は、「あんたたちができないなら、施設に入れなさいよ!」と一喝。

「でも叔父さんが施設はダメだって。みんなで少しずつ分担して、まだまだ自宅で見ようって言うんよ……」と市原さんはしどろもどろ。

「なんで言いなりなの? あんた叔父さんの奴隷? 見損なったわ。もういい!」

数年ぶりの電話は怒涛どとうのごとく終了した。

「叔母の言うことはもっともだと思いましたが、叔父の意見は私には絶対でした。私が『施設に入れよう』と言うことで、どんなに叔父をがっかりさせるのか。『叔父に見限られるかもしれない』と考えると、とても言い出せませんでした……」