「情報の共有、目的の共有、結果の共有」
小嶋は日常的に、情報のあり方、コミュニケーションのあり方、会議の仕方、傾聴方法、事務の流れなどについて、口酸っぱく言ってきた。
上司が部下に腹を割って情報を開示し、現状を訴え、協力を求めたとしたら、部下は「これほど信頼してくれている」と感激をするものである。反対に情報を自分だけに取り込み、開示しない上司がいたら、どう動いていいかわからなくなり、その果ては「勝手にどうぞ」ということになる。
「人本主義」を唱える一橋大学名誉教授の伊丹弘之教授は、経営には人・モノ・金に加えて「感情」があると喝破している。部下の意見、やる気を出させるための縦横上下の豊富なコミュニケーションほど効果的なものはなく、置かれている共通の目標に向かってのPDCA活動は良い結果を生む。万が一、不満足な結果であっても、その結果について共有することにより、より強い団結力や組織としての捲土重来の意識がうまれるのである。
小嶋は全国の人事担当者会議を月に一度開催し、本社の人事スタッフも参加させた。そこでは小嶋からの指示や訓戒訓示はなく、各員からの発表に対して短いコメントをするにとどめた。その場ではできるだけ自分の情報を開示し、同時に地域からの人事情報をつぶさに得、さらに全員に共有させたのである。
「不満の本質を見極めよ」
不満は時としてさまざまなカタチで表面化するものである。すねる・反発・拒否・怠惰・反抗・抗議・非協力・無関心等として噴出するが、カタチは問題ではなく、その原因がなにかである。
上司の一見ささいと思われることがらで、部下が大変傷つくことがある。たとえば、朝のあいさつの返事がなかった、名前を呼び捨てにされた、反対に呼び捨てにしてほしいといった不満だ。会議に呼び出しがなかった、OJTや教育の機会がない、改善提案をしても返事や取り上げがない、もっと重要な仕事、責任ある仕事を任されたいなど、比較的高次の不満もある。後者は良き不満であり、成長のあかしでもある。
また、別の角度からみると、根っからの不満分子もいる。いわゆる自己愛人間で、今自分の不幸は他者のせいであるとする人物である。
カタチとしては同様であるが、もうひとつ皮をかぶって現れるものがある。「正義」という皮である。至極もっともな意見をつけ、他人をおとしめる場合がある。固有の不満を公の不満としてすり替えてくる。なんとも厄介な人間ではあるが現実には存在する。
ここまで極端なことはまれではあるが、上司は部下の心の動き行動を早く察知、識別して適切な処置を施す必要がある。放置すると慢性不満者になりうる。
東和コンサルティング 代表
三重県生まれ。岡田屋(現イオン株式会社)にて人事教育を中心に総務・営業・店舗開発・新規事業・経営監査などを経て、創業者小嶋千鶴子氏の私設美術館の設立にかかわる。美術館の運営責任者として数々の企画展をプロデュース、後に公益財団法人岡田文化財団の事務局長を務める。その後独立して現在、株式会社東和コンサルティングの代表取締役、公益法人・一般企業のマネジメントと人と組織を中心にコンサル活動をしている。