雇用調整助成金の活用をためらう企業が多い理由

困ってしまったFさんは、同じくコロナで仕事を失ったモンゴル人の友達から紹介されてPOSSEに相談しました。話を聞きながら、そもそもこの派遣会社も前述の「雇用調整助成金」を使わずに解雇しようとしていることがわかりました。この制度を使えばFさんはこれまで通り給料を受け取ることができ、かつ会社の負担はそもそも生じなかったのです。

しかし、国から企業へ補助金が支払われるまでに数カ月のタイムラグがあるため一時的に立て替えないといけないことから、この制度を活用しない企業が多く存在します。特に外国人の場合はこのような制度について知らないだろうと高をくくって、すぐにクビにしたり、無給で休むよう命令したりしている企業は少なくありません。

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Fさんが労働組合に入って会社と団体交渉をした結果、当初会社は「仕事がない」と渋っていましたが、契約期間が残っており、また雇用調整助成金を使うことができるにもかかわらず解雇している点が法的に不利だと判断して、Fさんが職場に復帰することを認めました。

「いつでもクビにできる」非正規の外国人労働者

これらの事例を見ていくと、2つのことがわかります。1つは、コロナウイルスはあくまできっかけに過ぎなかったことです。賃金不払いや解雇といった労働問題やその結果としての生活困窮はコロナ以前から蔓延しており、常に外国人は弱い立場に置かれていたことがわかります。

もともと外国人労働者の多くは非正規で、POSSEに相談した外国人のうち85%は期間の定めのある雇用、つまり非正規雇用でした。企業側は「有期雇用であるのは日本に滞在できる上限期間が決まっているから」と主張しますが、ではその期間いっぱいまで契約期間を定めているかというとそうではなく、単に「いつでもクビにできる」状態を作るために1カ月などの細切れ雇用にしています。

かつ、日本では企業はアルバイトや契約社員といった、特に女性の多い非正規労働者から解雇していく傾向にありますが(*1)、外国人労働者は「非正規」であるがゆえに差別され、さらに外国人であるがゆえに非正規の中でも劣位に置かれ、真っ先にクビ切りやシフト削減の対象となっています。

この事実は国の統計からも明らかです。外国人に関して、2020年5月から7月までは、新たに仕事を見つけた人の数よりも離職者の方が多く、外国人労働者が就くことができる仕事が減ってきていることがわかります。