最初は「専用のショーケース」で売られていた

【事例1】江崎グリコ「セブンティーンアイス」

1983年の発売開始以来、約40年がたつ現在までロングセラー商品になっている江崎グリコの「セブンティーンアイス」は、売り方を変えたことで起死回生した良い例だ。発売当時、街中でアイスを食べ歩きするのがブームだったことを受け、17歳の女子高生をメインターゲットに、17種類の味を届ける商品としてセブンティーンアイスは開発された。

当初、小売店に専用ショーケースを置く売り方が採用されていた。これは、競合他社のアイスが入りまじって陳列されたアイスケースの横に、セブンティーンアイス専用のケースが特別にもう1つ並べられる形だ。それだけ期待された商品だったが、販売開始から2年間、なかなか思うような売上につながらなかった。

現状打破に思い悩んだ末に選んだのが、ライバルの多い激戦区である小売店から離れ、ライバルのいない新しい売り場を開拓する道だった。「アイスが売られていない場所」として、当時の若者にブームだったボウリング場を選び、初のアイス専用の自動販売機を設置した。新宿コマ劇場のミラノボウルに置かれた「アイスの自販機」はすぐに人気を集めた。その後、若者が集まる場所として、レンタルビデオ店、レジャー施設、スポーツ施設、学校や駅などに続々とアイスの自販機が設置されていき、セブンティーンアイスは一躍、大ヒット商品に生まれ変わった。

写真=iStock.com/winhorse
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「ご機嫌取りアイス」「ご褒美アイス」のニーズも満たした

ターゲットを若者だけでなく、ファミリー層へ拡大していくことにも成功した。ショッピングセンターでは、駐車場からの入口やトイレの側にアイスの自販機を設置した。そうすることで、親が小さな子供を買い物やトイレに連れていく場面で、子供をきちんとさせる「ご機嫌取りアイス」としてよく買われるようになった。また、スイミングスクールにも多く設置され、水泳を頑張った子供を喜ばせる「ご褒美アイス」としても定番化した。現在では、全国に約2万台の自販機が置かれ、子供から大人まで幅広く親しまれている。

それまで「アイスが食べたい」というニーズを持った消費者は、少し我慢して、コンビニやスーパーへ買いに行くしかなかった。しかし、セブンティーンアイスが小売店での販売から、人が大勢集まる場所に置く自販機での販売へ売り方を変えたことで、消費者の「今すぐアイスが食べたい」という本音のニーズを独り占めできるようになったのだ。ふと思った瞬間に自販機でちょうどよく買えることで、ニーズを逃さずつかみ取った。

さらに、「子供に静かになってほしい」「子供を喜ばせたい」「おもちゃを買うよりは、アイスの方がお手軽」といった、じつはショッピングセンターやスイミングスクールで親が思い続けてきた別のニーズを満たすことにも成功した。