「キャッシュカードをお預かりします」なぜ承諾したか

しかしここまでは、詐欺グループの事前準備にすぎません。ここからが詐欺行為の核心だったのです。

「それでは、税務署でもらった資料を持って、銀行に行き、法人名義の口座の開設をお願いします」

男性の近所にある複数の銀行に行くように指示します。その時、銀行への対応マニュアルも指示されています。

「事業内容の質問は必ずありますので、しっかりと答えられるようにして下さい。特に、会社名は何も見ずにスラスラと書けるようにして下さい。もし海外送金はするかと尋ねられたら、『しない』と、答えて下さい」など、事細かに問答が指示されます。

その時、男性が驚いたことがあるといいます。

「安部からは、『すでにホームページがありますので、銀行にはURLを伝えて下さい』ということでした。見ると、すでに通販サイトが作られていたのです。会社概要の代表者には、私の名前。インテリア系の商品を扱うネットショップでした」

さらに男性は、今後の事業展開として「アマゾン・楽天などにも出店を考えていると話すように」とも言われたといいます。

こうして男性は、指示された複数の銀行に法人名義の口座を作りました。

さらに指示は続きます。「会社としての取引なので、1日当たりのキャッシュカードのお振り込み・お引き出しの限度額の引き上げを窓口にて行うように」と言われて、再度、彼は手続きをします。

ある銀行では、振り込みを*千万円に、そして引き出しを*百万円に引き上げました。

すべての作業を終えて、しばらくすると男性の元にキャッシュカードが届きます。

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それを告げると、安部は「クライアントの配送スタッフが取りに伺います」と言いました。一瞬、男性の反応がなかったのを察したのか、「私どもの会計士が帳簿をつけながら、現金の預け入れ・引き出し・振り込みをしていくので通帳を預かります。2年後の廃業時には返却しますので、ご安心して下さい」と付け加えます。

「どうしても、渡さなくてはできないものか?」と尋ねましたが、「はい。実際に現金をATMから預け入れたり、出したり、通帳にメモしたりすることもありますので」と言われて、自分のお金は口座に入っていないし、これまでの話のなかで安心感を覚えていたため、暗証番号までも伝えてしまいます。

そして、やってきた20代ぐらいのスーツ姿の男に、通帳、カードを入れた紙袋を渡します。