交際開始の当初は、常に千紗さんとの約束を優先していた敦士さんだったが、次第に仕事優先の日々になっていった。敦士さんは20代半ばで部署内営業成績トップ。そのプレッシャーを抱えていたこともあり、「仕事を頑張るのが2人のためになる」と信じていたからだ。
職場に残る“元カノ”との思い出…
一方、千紗さんは交際開始当初から「30歳までに結婚をしたい」と口にしていた。
敦士さんはそれまでにプロポーズをしようと考えていたが、彼女が30歳の誕生日を迎える直前に、仙台への転勤要請が下された。
仙台なら東京からもそう遠くないし、週末は会いに帰れるかなと考えた敦士さんは、プロポーズの予定を延期し、単身仙台に行き、転勤後の忙しい日々を過ごしていた。
ところが、2人の関係は終幕を迎えることになった。
半年後、久々に上京して千紗さんと会った敦士さんは、突然別れを告げられた。
敦士さんの転勤後に知り合った別の男性と結婚するというのである。敦士さんにとっては青天の霹靂だったが、正直思い当たる節はあった。「30歳までに結婚」という千紗さんの夢を叶えてあげられなかった。転勤後は新しい職場での仕事に忙しく、連絡も少なくなっていたのだった。
心の距離を埋められないまま、千紗さんは去っていった。
それから7年の歳月が流れ、敦士さんは東京本社に戻った。千紗さんの思い出を、職場のそこかしこに見つけ出しては落ち込む日々が続いた。
7年間で交際6人、3カ月以上は続かず…
もしもあの時、仕事ではなく千紗さんとの交際を優先させていたらと後悔が頭をよぎる。別れてから別の女性と交際したこともあったがどれも長くは続かず、気づけば30代半ばになっていた。
「自分は誰と付き合ってもうまくいかない」「元カノを超える女性とは出会えない」といった絶望感にさいなまれて仕事にも集中できない。そんな様子を見かねた同僚が合コンに誘ってくれたり、行きつけの定食店主がアルバイトの女性を紹介してくれたりした。
もちろん婚活アプリにも登録したが、元カノと比べる癖が抜けなかった。
仙台勤務の期間に、十数人の女性とデートをした。交際した女性は6名。付き合う度に愛せないことを実感して、3カ月以上の交際が続かなかった。最短で3回しかデートしないで別れてしまった人もいた。半月と持たずに自然消滅する形もあった。
理由はシンプルだ。敦士さんは「次も会いたい」と思えなかった。元カノと外見的特徴が近い人と付き合っても、内面が同じわけではないのだから。
相手の自分勝手な行動が見えてくると敦士さんは面倒くさくなり、別れを意識し始めるのだった。外見から探し出すことでかえって理想に近づけなかったのだ。長続きしない相手と付き合っては別れるを繰り返して元カノを神聖化してしまう負のループから抜け出せずにいた。