千紗さんとの思い出がある東京本社に戻って初めて、敦士さんの中にこの状況から脱したいという気持ちが芽生えたという。東京に戻ってから結婚相談所での活動を決めた。決め手は仲人がアドバイスするシステムだった。以前成婚した親戚からの紹介で敦士さんは入会面談にやってきた。
今まで千紗さんのことが頭の片隅にあって、付き合う人は元カノに似たような人ばかり。華やかな顔立ちで、ロングヘアの女性を選んできたそうだ。
まずは元カノの外見イメージを捨て去ることが婚活の必須条件だった。
「神聖化した元カノ」を断ち切ったシンプルな方法
敦士さん自身が一番そのことを理解していた。だが、一人では沼にハマってしまうのが婚活の難しさでもある。仲人はそんな人たちにも粘り強く併走する。
私は、敦士さんに元カノの内面的特徴をいくつか挙げてもらうことにした。千紗さんのどこに惹かれたのか、2人でいて何が楽しいと感じたのか。対話を通して、一つひとつ元カノに抱いたポジティブな感情を浮かび上がらせていった。これは「神聖化した元カノ」の負のループを断ち切るには効果的だ。
姉御肌で面倒見が良い(家族意識・思いやり・共進力)、新しい情報に敏感(私は「アンテナ力」と呼んでいる)、彼氏には弱みもみせる(素直さ・かわいげ)……。敦士さんはいくつもの特徴を挙げていった。
そしてお相手候補のプロフィール写真から、アンテナ力が高い方を選出するためにお顔だけの情報ではなく、着こなしにも着目してもらい気になる人を探してもらった。初めは苦戦していた敦士さんだったが、続けるうちに好意を抱く女性にはある共通点があることに気づいたようだ。
それは、写真の笑顔が自然体で洋服の着こなしと合っていること。仕事の内容や身長の高低や顔の造形など他の条件には敦士さんはこだわりがなかった。敦士さん自身、7年にわたる間で元カノの残像を追いかけ続けてきたが、ここでようやく気が付いたのだろう。決して元カノの外見が好きだったのではなく、個性そのものを愛していたことを。
小さなことに思われるかもしれない。一人ではなかなか気づけない。言葉にする機会もないだろう。これを拾い上げ、受け止めるのも仲人の大事な仕事なのだ。
過去の悪い記憶を思い出すのではなく、元カノのどこが好きだったのかをいま一度分析し、自分が本当に結婚相手に何を求めているのかを理解していく。整理することで美化されすぎた残像が徐々に現実を帯びていく。敦士さんの心が再び動き始めるまで時間はかからなかった。