免疫老化の予防は細胞内のミトコンドリアが鍵を握る

腸内環境を整えることが免疫力アップにつながることは広く知られてきたが、腸活と並行してミトコンドリアの活性化も行ってほしいと話すのは、国産ワクチン開発の第一人者であり、大阪大学大学院医学系研究科教授の森下竜一先生だ。

写真=iStock.com/inkoly
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森下先生は、「免疫老化を防ぐ鍵が細胞内のミトコンドリアにある」と話す。ヒトはおよそ37兆個の細胞でできているが、そのすべての細胞の中に存在するのがミトコンドリアだ。酸素を取り込んでエネルギーをつくり出し、人に必要なエネルギーの90%以上を供給している。

ミトコンドリア

「ミトコンドリアを活性化させて、免疫細胞のエネルギー循環が良くなれば免疫応答が正常に働きます。逆に、ミトコンドリアの働きが悪く、十分なエネルギーが供給されないと、免疫細胞の分化に影響し、数と質が低下します」(森下先生)

ミトコンドリアが酸素を取り込んでエネルギーを作り出すとき、その代謝産物として活性酸素もつくり出している。とかく悪者扱いされがちな活性酸素だが、免疫系では重要な働きを担っており、免疫細胞が異物を攻撃するときに使われたり、細胞の増殖や自然死を調整したり、免疫の暴走を抑えたりすることにも働くという。つまり、ミトコンドリアは免疫反応全体のバランスをとる司令塔の役割も担っているのだ。

また、獲得免疫系のB細胞とT細胞にもミトコンドリアは大きく関わっている。

「抗体をつくる働きを持つB細胞の活性化にミトコンドリアは必須です。また、ミトコンドリアの代謝産物は、T細胞の分化と増殖にも、重要な調整因子として働きます」(森下先生)

ミトコンドリアを活性化させると、代謝産物の活性酸素も増えてしまうのでは? と思うかもしれないが、ミトコンドリアには還元型コエンザイムQ10や還元型グルタチオンなどといった抗酸化物質に働く成分が存在するため、活性酵素の害を軽減する働きがあるという。残念ながら、細胞内のミトコンドリアは加齢とともに数が少なくなるため、効率よく活性化させる必要がありそうだ。

ミトコンドリアを元気にする還元型コエンザイムQ10

ミトコンドリアを活性化させるポイントは、バランスのいい食事とコエンザイムQ10の摂取だ。コエンザイムQ10は活性酸素の害から守るほか、ミトコンドリアを増やして元気にする働きがある。

「最近の研究でインフルエンザ患者の血中ではコエンザイムQ10のレベルが優位に低いことが報告されています(図表2)。また、十分な睡眠、適度な運動、ストレスや疲労の軽減も大切です。ストレスにさらされるとミトコンドリアはエネルギーを過剰に生産し活性酸素を過剰生産し、自身の遺伝子を損傷してしまいます」(森下先生)

出典=Chase M et al, Influenza Other Respir Viruses.13(1):64-70, 2019

積極的に摂取したいのは、コエンザイムQ10を含むイワシ、ハマチの刺し身、豚肉、牛肉、卵、オリーブオイル、ブロッコリー。コエンザイムQ10は油に溶ける性質があるため、炒めものやオイルをかけたカルパッチョがおすすめだ。

しかし、食事からでは十分量を摂取しにくいため、機能性表示食品なども活用するといいという。ミトコンドリアの活性化や抗酸化作用が得られる「還元型コエンザイムQ10」を選ぶのがポイントだという。

新型コロナ収束の打開策として期待されるワクチン接種が少し先になりそうな状況の中、自身の免疫力を高めておくことが重要になりそうだ。

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