「モデル世帯」の年金額は上位2割の富裕層

19年度の「財政検証」では、インフレ率や賃金上昇率などの予測を基にした6つのケースごとに、将来の「所得代替率」をはじき出しているという。

その大部分において、所得代替率は「減少はするものの50%以上を維持」となり、これこそが、政府・厚労省が「公的年金は今後も大丈夫」と主張する大きな根拠となっている。

法政大学経済学部の小黒一正教授(写真提供=小黒一正氏)

しかし、小黒教授によると、その数字の算出方法が問題なのだという。

「公的年金の所得代替率は、『モデル世帯』の年金額を基に算出しています。ただ、この『モデル世帯』の選び方が問題なのです。

14年度の『モデル世帯』の年金額は、夫が年間約186万円(=月額15.5万円)、妻が年間約78万円(=月額6.5万円)、合計約264万円(=月額22万円)となっています。

しかし、厚生労働省の『年金制度基礎調査 平成24年』によると、150万円未満の年金しか受け取っていない男性は40.4%もいます。200万~250万円の年金を受け取る男性は19.8%しかおらず、『モデル世帯』といいながら、一部の裕福な世帯を例に挙げて議論しているのです」(小黒教授)

「夫が終身雇用、妻は専業主婦」はもはやモデルではない

しかも、「モデル世帯」の定義にも疑問があるという。

「『モデル世帯』とされているのは、『夫は40年間働いたサラリーマン、妻は40年間ずっと専業主婦』という世帯です。しかし、現実を見れば、もはや、これが『モデル世帯』ではないことは明らかです。

雇用の流動化が進み、年功序列で定年まで働くケースは減っています。また、女性の社会進出も進み、共働き世帯が増えています。

そんな中、夫が終身雇用、妻が専業主婦という世帯を『モデル世帯』とするのは、現実的に無理があります。もっと現実に即した『モデル世帯』を設定すべきです」(小黒教授)

「数字のトリック」はこれだけではない。小黒教授によると、そもそも「本当の所得代替率はもっと低い可能性がある」というのだ。

「所得代替率は、年金支給額が、現役世代(厳密には現役男性)の所得の何パーセントかを示す指標です。所得代替率が50%とは、現役世代の所得の約半分の額の年金をもらえる、という意味です。

つまり、所得代替率とは、『年金額を現役世代の所得で割ったもの』です。ただ、この計算方法にも、かねてより『重大な欠陥』が指摘されているのです」(小黒教授)