中国には漢方薬を扱う専門店や薬局(西洋薬や中国薬)はあるものの、日本のように気軽に医薬品や健康食品を買えるドラッグストアは存在しない。だが、ネット販売でどんなものでも手に入ることから、中国メーカーも日本をまねて「青汁」などの製造を始めた。
また、健康食品だけでなく、日本で人気の納豆を中国のスーパーでも買ったり、砂糖が入っていない烏龍茶なども人気になったりし始めた(それまでは甘い烏龍茶のほうが人気だった)。さらに、自宅のベランダで野菜を栽培したり、野菜ジュースを手作りしたりする人も増えた。
デリバリーは便利なので依然として人気があるが、コロナ禍が始まって以降、「誰の手を介して作られた料理だか分からないし、配送員のことも100%信頼できない。自分で手作りするのがいちばん安全だ」といって、デリバリーに頼らず、オフィスに手作り弁当や野菜サラダを持参する人も増えた。
ロックダウンでも即席麺は選ばれていない
むろん、海外旅行できるようになったことと経済的に豊かになっていった時期が重なるため、日本での「爆買い」だけが彼らの健康に対する意識を変えたというのは言い過ぎかもしれない。だが、ネット上の情報量が爆発的に増えたことで、「即席麺はあまりよくない」「できるだけ手作りをしよう」という認識が高まっていることは事実だ。
今回、ロックダウン中の上海に住む私の中国人友人たちの中には、「モヤシ栽培器でモヤシを栽培して炒め物を作った」、「パンを手作りした」と言って写真をシェアしている人が多く、この状況でもカップ麺を食べている人はいなかった。
「爆買い」のとき、日本に観光を兼ねたがん検診などの医療ツアーに来る富裕層もいたが、そこまでお金はかけられないけれど、健康食品を取るなどして、少しでも長生きしたい、健康を維持したいと切実に思う人が増えた。ゼロコロナという厳しい政策の下で暮らす中で、そうした危機意識はますます高まっているようだ。
だからこそ、ロックダウン直前のスーパーでも、即席麺を最優先で買い物カゴに入れたという人は少なかったのだろう。そうした意識の変化が、2015年ごろを境とした即席麺の売り上げ減少へとつながっていったのではないか、と考えられる。