過激陰謀論団体に高齢の父親がハマった
東京ドームで接種阻止をもくろんだ陰謀論団体は、「神真都Q(ヤマトキュー)」という名を名乗っている。構成員は40代から50代がボリュームゾーンで、次にそれ以上の高齢者が多い。デモや実力行使の様子を見ると、地方ではむしろ高齢者を中心にした組織のように思われる。
父親が主催者のYoutubeをきっかけに神真都Qの構成員になった女性は、筆者の取材にこう答えた。「もう誰も父を止められません。うれしそうにデモに行っていた頃とも別人になってしまった。正義の味方ごっこだったのが、ほんとうに正義の味方になったと信じ込んでしまっているんです。やめてほしいと家族が言えたのは(2022年)1月ごろまでで、飲みかけの缶ビールをぶつけられてからもう何も言えなくなりました。私のことを悪の手先だと思っているんだと思います。おまえが二度と来られないように玄関の鍵を替えると言われました」
ワクチン害悪論や陰謀論には、大抵「敵」が設定されている。金もうけをする製薬会社や医師、世界を支配しようとする権力者や民族などさまざまだが、神真都Qの場合は「悪い宇宙人」が敵だ。こうした敵と闘う仲間同士が助け合い、尊重し合うことで、それぞれの自尊心が満たされる。社会から期待されるものがなくなり人付き合いが減った高齢者にとって、世のため人のために貢献できる集団の心地よさは格別だ。
現代社会に居場所を見つけられない人々
高齢者だけでなく現役世代の構成員たちも、現代社会に居場所を見つけられない人が多いようだ。「本も雑誌も読まない人っていますよね。世界地図で知ってるのは日本とアメリカと中国くらい。浜崎あゆみくらい(の時代)で時間が止まってる人、やたら堅物で冗談ですらない世間話も通じない人もいたし。みんな何かがずれてる」と話してくれたのは、神真都Qの構成員と接触した40代の元反ワクチン派男性だ。
「この世界は自分の目に見えたままに存在している」と信じ、これがすべての人が共有している世界と疑わない人々が世の中にはいる。世界観が狭く、多面的で複雑な情報を処理できない。自分の感覚がすべてで、自分と違う価値観や知識を持つ人を受け入れられない。神真都Qはこうした人々に、いま目に見えている世界の意味と解釈を初めて与えたのだ。
コロナ禍が終わっても反ワクチン派や陰謀論者は消えてなくならず、ありふれた隣人からまた新たなメンバーが生まれていくだろう。自分の年老いた家族が陰謀論にハマり、説得など聞く耳を持たずに迷惑を振りまきはじめるかもしれない。自分自身すら、社会に居場所を失ったときにそうならないとは言い切れない。