過当競争が激しいカーナビやカーオーディオなどのハードウエアばかりを売るのではなく、これまでに蓄積したデータを駆使してドライバー向けのサービスを提供し収益力を高めるという内容だった。だが具体策は示されていなかった。

矢原社長も「箱モノを売るビジネスを続けても成長は期待できない」と考えていた。毎年のようにカーナビをモデルチェンジして、画面の大きさやスペックを他社と競っても、いずれ行き詰まることは目に見ていた。

だからこそ、成長の軸は「サービス」にする必要があった。

社員たちとのブレーンストーミングでは「パイオニアの強みとは何か?」「世の中の変化は?」と根源的な問いかけをした。その中で早い段階で出てきたのが「パイオニアの強みは音、音声」という意見だった。

そもそも運転中に画像を見るのは危険だ⇒だから車内ではテレビではなくラジオをつけ、カーオーディオで音楽を聴くことが多い⇒クルマの中は「音が価値を生み出す空間ではないのか」⇒「音響メーカーのパイオニアの強みは音! 音にこだわろう」などとブレーンストーミングの議論は収斂しゅうれんしていった。

撮影=プレジデントオンライン編集部
インタビューに応じるパイオニアの矢原社長。

運転中に画面操作はできない…音声に見いだした自社の強み

カーナビ、カーオーディオの世界はさまざまな機能が加わり、タッチパネルが多層化し、操作のために何度も画面を変えなくてはならなくなっている。

大画面で情報過多となり、46%が「カーナビ自体に苦手意識を感じる」と答え、65%が「カーナビの操作に一時停止する必要があり、億劫おっくう」と答えたという(パイオニアの独自市場調査)。

この30年余りの間に、いろんな機能のスペック競争が進み、画面での操作は複雑になった。運転中のドライバーは戸惑うばかりの状況なのだ。

一方で音声認識技術はアップルのSiriやアマゾンのAlexaなどが登場したように格段に進化した。

音声認識技術を使い、カーナビに指示し、カーナビは音声で答えるという仕組みも可能になった時代なのだ。

本来、運転中は画面を見てカーナビを操作できない。スマートフォンもご法度になる。車内という特殊な環境だからこそ音声を使った商品は新しい価値を生む。画面がなくてもいい、これまで車載ビジネスで培ってきた技術やノウハウを活かし、音声で勝負をすれば勝ち目はある――。

再建中のパイオニアが活路を見出した「音声」と「ナビ」は、社内の議論を経て「会話するドライビングパートナー」というNP1のコンセプトに行きついた。

コンセプトは「会話するドライビングパートナー」

考えてみればラリーでドライバーの横に座るナビゲーターは、地図やペースノートをにらみながら道路の状況を観察し、ドライバーに言葉で指示する。必死に運転しているドライバーに地図を見せはしない。NP1のコンセプトはラリーのナビゲーターの姿に重なる。