矢原社長は外部だけに頼ったわけではない。パイオニアが持っている強みも生かした。パイオニアには振動が激しく高温になることもある車内できちんと動く機器をつくる技術がある。カーナビを30年以上もつくり続け、ルート検索の優れたAIや蓄積したデータも豊富にある。「パイオニアの強さを捨てる必要はない」と矢原社長は言い切る。
矢原社長は新しい価値づくりのために「モノ×コト」にこだわった。よく似た言葉として「モノからコトヘ」がある。モノを捨てコトヘ、サービスへと転換しようとする合言葉だが、矢原社長はそれとは一線を画した。
新しい人材や技術を積極的に採用するのは当然だが、パイオニアが持つモノづくりやカーナビの既存技術まで否定することはないからだ。NP1はモノ(ハード)とコト(サービス)の相乗効果を狙って誕生した商品というわけだ。
「グーグルやアップルはまだ車載専用機をつくっていない」
NP1の希望価格は、通信費とサービス利用料を合わせて1年分のベーシックプランが6万5780円、3年分のバリュープランが9万3500円だ。矢原社長は「ハードを売って終わりではなく、サービス、アプリを売って収益を増やしていくビジネスモデル。ハードは極力安く抑えました」と明かす。
プラットフォーム「Piomatix」を活用するNP1を皮切りに、これからさまざまな商品やサービスを提供していくという。そのNP事業の売り上げ目標として2025年に300億円、2030年には1000億円を掲げる。内訳はハードが500憶円、サービス分野が500憶円。このNP事業を契機に、パイオニアは業態転換を進める覚悟だという。
そのためにはドライバーが「あったらいいなあ」と思う新サービスの開発が不可欠だ。旅行会社、気象予測会社、駐車場、宿泊施設といったサービス提供会社やシリコンバレー、イスラエルなどのハイテク技術を持ったスタートアップ企業とも連携し、新たなドライブ体験を創るプラットフォーム「Piomatix」を充実させていく考えだ。
ただ、「プラットフォームを目指す」とは言っても簡単なことではない。CASE(コネクティッド・自動運転・シェアリング・電動化)が進む自動車産業にはGAFAをはじめとして巨大サイバー企業が参入しようとしている。
パイオニアが目指すプラットフォームづくりのライバルはまさに巨大サイバー企業である。グーグルやアップルに本当に勝てるのだろうか。矢原社長に質問をぶつけてみた。
「両社とも車載専用機はまだつくっていません。なぜなら振動があり、室温も高くなる車内で使う車載機をつくるのはとても難しい。パイオニアには車載器をつくる長年のノウハウがあり、そこに集中してきました。手ごわいですが負けません」と矢原社長は強気である。