国民の救済になるのであれば貯蓄に回してもいい

しかし、現金給付の「政策目的」が、消費の喚起ではなく、コロナ禍で苦境に陥った国民の救済にあるのだとしたら、話は別です。生活が苦しい国民が、給付された現金を消費ではなく貯蓄に回したとしたって、それが国民の救済になるのであれば、一向にかまわないはずでしょう。

しかも、2020年春はコロナ禍の真っ只中にありましたから、当時の10万円の現金給付は、明らかに国民の救済を政策目的としていました。政府が感染拡大の抑制のために国民に外出自粛を要請していた時ですから、消費活動を盛んにしようとしていたはずがありません。

それなのに、矢野次官は、10万円の現金給付を「有権者に歓迎されることはあっても、意味のある経済対策にはほとんどなりません」と断じました。ここで、彼が「国民」ではなく、わざわざ「有権者」と書いているところに注意を払っておきましょう。

つまり、矢野次官は、政治家が選挙での票を目当てに、10万円の現金給付を決めたのだと暗示しているのです。このあたりに、矢野次官の政治に対する偏見がみてとれます。

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10万円程度では働く意欲をなくす状況にはならない

さて、「バラマキ」か否かを判断する第三の基準は、「政策効果」になります。

例えば、現金給付を長く続けたり、過度に高額の給付を行ったりするとしましょう。そうすると、国民が国からの給付に頼り切って、働く意欲をなくしてしまうかもしれません。

したがって、国民を救済するための政策は、国民が勤労意欲を失わないように、設計する必要があります。

ところで、国民の大半が給付金に依存して働かなくなると、日本経済はどうなるでしょうか。国民は働くのをやめて、消費ばかりを増やすことになるでしょう。働き手は足りなくなるのに、消費ばかりが増えることになります。

ということは、供給が不足し、需要が過剰になるわけです。需要が過多になり、供給が不足すると、物価が大きく上がります。要するに、(デマンドプルの)高インフレが起きるのです。

ところが、日本は高インフレどころか、20年以上もゼロインフレあるいはデフレでした。ということは、10万円程度の現金給付によって、国民が勤労意欲を失うなどと心配するような状況にはないと言えます。