しかし、働いているうちに段々と考え方が変わってきた。

「会社全体、特に経営サイドのナマ情報が入るし、社長直轄だから頻繁に会える。普通の会社員だとそうはいきません」

まず、CIA(公認内部監査人)の資格を取得するための勉強を始めた。合格後、有資格者の集まりに出入りするようになった。

「夜に勉強会を開き、終わったら飲み会。ほとんどがそうそうたる大企業の人ばかりで、名刺交換をした翌日に必ずメールを送った。そうしているうちに人脈が広がっていった」

企業の内部統制への関心が高まったことで、監査部門の位置づけも変わってきた。

「時代の要請でいい部署になりました。独立性が保たれていて何でも言えるし、金と女に負ける男たちの人間模様も垣間見ることができる。現在のメンバーの3~4割は社内で募られ、自ら望んで来た者たちです」


 

トラブルは誰にでも起こりうるし、運の要素も含む。どう回避するか、よりもどういう立ち位置で受け止めるかが肝要だ。先の事例は、(ややゆきすぎの例もあるが)本人が必ずしも「不当だ」と声高に叫んで解決したわけではない。理不尽を感じつつも、ある程度運命として受け容れながら他日を期す。キャパシティを超えたと感じたら、専門家に相談することだ。冒頭に登場した安部氏は言う。

「会社員たるもの、外には7人の敵がいることを忘れてはダメ。雇われの身であることを忘れて『この会社の経営は……』などと言い出すと、必ずハレーションを起こします。単独で決起しても墜落するだけです」

自分の言動を、周囲や相手がどう思うかを考える。まずはそこが出発点のようだ。

※すべて雑誌掲載当時

(小原孝博=撮影)