圧迫感のある地下牢みたいな部屋で一夜を過ごす

高級な宿で仕事をさせて、それから泊まりの安宿へ長距離をタクシー移動となれば、宿代を浮かせた意味がない。だから添乗員は参加者を宿まで案内し終えると、そのままバスに乗って安宿へ移動、というのがお決まりのコースとなる。

トルコにカッパドキアという、有名な観光地がある。そこに洞窟をくり抜いてつくった、個性的で人気の高いホテルがある。部屋の一室一室がすべて手づくりで、異なった構造となっている。

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そのため添乗員が部屋を割りふらず、参加者に部屋のキーを選んでもらって決める。運命の糸に導かれて、素晴らしい部屋になる人もいれば、いまひとつという人もいて、悲喜こもごもである。

もちろん添乗員には、部屋を選ぶ権利などない。ホテルの中でもきっともっとも人気のないであろう地下牢みたいな一室が私の部屋であった。息苦しくて、圧迫感がすさまじかった。

それでも洞窟ホテルの場合はグレードは最下層とはいえ、ホテル本体の部屋である。日本の旅館では、別棟のすさまじい施設に回されたことが何度かあった。もはや旅館とはいえず、簡素なプレハブ小屋である。

隣の部屋の物音がつつぬけで、ということはこちらの部屋の物音も向こうに丸聞こえのはずなので、神経を使って、一夜をひっそりすごした。それでもそこはまがりなりにも部屋であった。そうではない場所で寝たこともある。

通された“別棟”は喫煙所代わりの物置

伊豆大島の民宿に泊まった折のこと。「添乗員さんは別棟へ行ってくださいな」と、主人がにこやかに言う。行ってみれば、別棟とは何のことはない、物置きのことであった。

ビールケースがうず高く山積みされているスペースの一角に布団が敷かれていた。自由に行動できるのは布団のスペースだけである。おまけに物置きの脇に喫煙所がしつらえてある。

従業員だろうか、入れ代わり立ち代わりタバコを吸いにやってくる。建て付けが悪いため、そのたびにタバコの煙が容赦なく襲ってきた。狭苦しい上に、一晩中煙ぜめという、苦しみの二重奏を味わせられた。これもまた派遣添乗員の悲哀である。