ロシア富豪を「蓄財の中心地」から締め出す

英国をめぐる企業レベルによる“ロシア離れ”で顕著な例としては、石油大手シェルによるロシア産原油の購入停止を含む同国事業からの全面撤退だろう。そのほか、変わったところではサッカー・プレミアリーグの名門であるチェルシーを保有していたロシアの富豪、ロマン・アブラモビッチ氏がクラブ売却を決めている

同氏はかねてからプーチン大統領と密接な関係にあるとされる。英国がロシア関係者の資産凍結を進める中、チームそのものが差し押さえになる懸念があるためだ。しかし、こうした動きも「アブラモビッチ氏に売却益が入ることを容認しない」とする英政府は同氏の資産凍結を決定している。

ロシア人の富豪にとって、英国は「蓄財の中心地」のような役割を果たしてきた場所だ。オリガルヒと呼ばれるプーチン氏に近いとされる新興富豪は、ロンドンにさまざまな法人を作り、事業を起こす格好にしつつ財を築いてきた。制裁の一つとして、ロシア最大の商業銀行ズベルバンクの英国金融システムを通じたポンド建て決済もすでに禁止されているが、こうした動きは確実にオリガルヒたちの活動にダメージを与えているだろう。

英国1カ国だけでも、制裁の影響はこのような規模にまで広がっている。米国でも同様の制裁を進めており、これまでに半導体や先端技術関連の輸出規制、そしてロシア産原油の輸入禁止も決めた。米クレジットカード大手のVISA、マスターカードもロシアではまったく使えなくなっている。

パン、乳製品、砂糖…あらゆるものが値上がり

しかし、こうした制裁の効果は、勇ましく最初に打ち出した英国へブーメランのように跳ね返っている。

ウクライナ危機が目に見える形で庶民のサイフを蝕んでいる顕著な例は、ガソリン価格の高騰だ。前年の3月中旬に1リットル当たり1.24ポンド(当時レートで186円)だったレギュラーガソリンはいまや1.55ポンド(240円)に値上がり、一気に25%も上がった。この先、1リットル当たり2ポンドを超えるとの予想まで出てきている。

筆者撮影
食べるに困った人々への食料品や雑貨は、市民有志が新品を買い、スーパーなどに置かれた所定のカゴに預ける仕組み

よく知られているように、ウクライナは世界でも有数の穀倉地帯だ。小麦価格の値上がりも顕著で、これにより食品価格の値上がりも避けられない。英国紙デイリーメールが3月8日付でまとめた「今後の物価値上がり予想」はおおむね次のようになっている。

出典=英国紙デイリーメール

さらに、物価高に加えて英国市民に絶望感を与えているのが電力・ガス料金の急上昇だ。

筆者は現在、英国内の全原発を運営している仏資本の電力会社EDFエナジーと契約している。3月いっぱいまでの月額は58ポンド(9000円弱)で、これがおおむね通常期の料金だった。ところが、欧州ではコロナ禍からの復興で原油・ガス価格が上昇傾向にあったため、1月末ごろEDFから月額98ポンド(約1万5000円)の定額制の新料金プランを提案された。

これでも「高い」と感じた筆者は、格安料金の新電力への切り替えを検討していたところへ、ウクライナ危機が勃発した。