急に行列ができると、材料を準備していないのが一番つらいという。オーダーをこなしながら、新たにキャベツを切っていると、客を待たせることになってしまう。オペレーション面で体制ができていないことは、今まで何度も聞かされていた。

あとはスタッフの対応だ。週末は60~70食出るようになっているが、これが100食を超えても問題なく回るのだろうか。今までのベストは1日78食だ。放送までに、万全の体制を整える必要があった。

写真提供=焼き麺スタンド
行列を想定して追加購入したコンロ

初めてできた行列

人間ドック休暇を取得した日の午後、ぼくは埼玉県での取材を終えると、8時ごろ店に向かった。テレビで取りあげられて10日間。店の変化を見極められるようになってから、黒田の話が聞きたかった。

東京焼き麺スタンドが、テレビで取り上げられるのははじめてのことだった。ガラス越しに店内を見る限り、雰囲気は以前と変わらない様子だ。

店に入ると、ちょうど男性客が1人帰るところだった。カウンターに女性が2人と、テーブルに女性が1人いる。ぼくの後でも女性が1人、テイクアウトで2人分をオーダーしていった。

変化を感じたのは、電話だった。ウェブ化が進んでも、電話で店の混み具合を確認する傾向に変化はないのだろうか。8人で予約したいという電話があり、黒田が予約できない旨を説明していた。

3月9日(土)の放送当日は、午後から客が殺到した。ランチで68食、一日を通して120食を売り切ったという。翌日も勢いは続き、ランチで89食、1日で120食を完売した時点で店を閉めた。

「はじめて行列ができたって聞いたときは、厨房にいてそれどころじゃなかったですね。次から次へと注文が入ってくるので、対応するだけで頭が回らないんです」
「じゃあ、行列は見られなかったんだ?」
「後でアルバイトの学生から、階段に客が並んで、一階の店の前まで続いたと聞きました。一階の店はランチ営業をしていないので、迷惑をかけることはなかったんですけど、ちょっとドキッとしましたね」

次の日からは、階段の並び方にも注意する必要があった。ほかのテナントからクレームになりかねないからだ。