マイホームを手に入れて迎える「黄金時代」

子どもが大きくなると、官舎に住んでいたますらおは「そろそろマイホームを買うか!」という気持ちになり、永住地を求め、住宅展示場にも足繁く通うようになります。陸上自衛官は国家公務員という安定した職業のため、銀行はホクホク顔でお金を貸してくれますし、ハウスメーカーも「絶対に逃がしてはいけないお客さん」として手厚いサポートを受けることができます。バランス釜や虫達の空挺くうてい降下と戦ってきた奥さんも「やっとマイホーム!」と嬉しさを隠せませんし、子ども達も「パパ! 僕の子ども部屋はあるの⁉」と目をキラキラさせながら、ますらおの父に話しかけます。

写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです

ちなみに、幹部候補生学校には「この先 住宅展示場」と掲げられた看板があります。そこにはレジャーシートのようなものを器用にテントみたいにして張った「剛健ハイム」という人類として限界ギリギリの住宅が展示されており「いいか、お前ら、訓練中はこの剛健ハイムがマイホームとなる。今から作り方を説明するから1回で覚えろ」と言われました。

イラスト=原田みどり(提供:KADOKAWA)

建てる場所を間違えると「年末年始とお盆」にしか帰れなくなる

そんな時代から苦労して訓練を乗り越え、出世し、結婚し、子どもにも恵まれて、いよいよ本当の住宅展示場に来られるのです。そして、陸上自衛官は「プライベートにおけるますらお黄金時代」を迎え、「あぁ、自衛官になってよかったなぁ」としみじみと感じるのです。

マイホームを建てる場所ですが、転勤が少ない陸曹は自分の勤務地周辺の駐屯地に建てるケースが多く、転勤が多い幹部は利便性の高い首都圏or地方都市に建てることが多いです。特に、防大卒幹部は「よし大分に一軒家だ!」と家を建てると大変なことになります。東北転勤となった際は九州へのアクセスが悪く、交通費もかかるので「年末年始とお盆休みにしか帰れない自分の城」となってしまいます。そして子ども達の楽しそうな写真を見ながら、自分は相変わらず単身赴任先の官舎で、さみしく排水口のヌルヌルと格闘する羽目になります。