学生の意識と企業の意識の乖離

しかし、学生の意識の転換とは裏腹に企業の中の就社意識は残り続けた。世の中が長時間働かせる「ブラック企業」問題で騒がしくなった2013年ごろ、IT系のベンチャー企業の採用担当者はいらだった様子でこう語っていた。

「もちろん社員のことを考えずに悪意をもって働かせている企業は問題だが、労働法を順守していない企業は山ほどある。うちのような中小ベンチャーは、法律ギリギリのラインで働かなければ、それこそメシのタネがなくなってしまうのが現状。労働条件がよいから入りたいという学生はこちらから願い下げだ」

担当者が強調していたのは「労働環境がよいか悪いかよりも、仕事にやりがいを持てるかどうかを重視してほしい」とのことだったが、すでにこの時期には学生の価値観とずれていた。

また、中堅商社の人事課長は「学生の中には『勤務時間は何時間ですか、残業はありますか』と聞いてくる人もいる。労働条件の優先度が高く、仕事に対する情熱を感じない学生が多い。労働者の権利だけを振りかざすような社員は会社のリスクにつながり、排除したいと思う経営者も多い」と指摘していた。まだ世の中には昭和のシステムを遵奉し、その残滓ともいえる価値観を引きずっている経営者も少なくなかった。

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「楽しい生活をしたい」就活生たち

一方、就活生の働くことに対する価値観はどんどん変化していく。前出の調査の「働く目的」は2000年ごろから「楽しい生活をしたい」と「自分の能力をためす」の2つが拮抗きっこうしていたが、2008年のリーマンショック後の第2次就職氷河期に入ると「楽しい生活」が突出して高くなっていく。楽しい生活が意味しているのは、遊びやレジャーを楽しみたいというのではなく、自分なりの小さな幸せを失いたくないという思いである。

もはや終身雇用を前提に、なりふりかまわず社業の発展に邁進することで経済的豊かさを追求した昭和の新入社員の価値観が崩壊し、自分の知識やスキルの範囲内で給与をもらい、多少ゆとりある充実した人生を送りたいという思いだ。