給与が上がらない日本にインフレが襲う

図表2は、「現金給与総額」の数字です。この数字は、基本給などの「所定内賃金」と、残業代などの「所定外賃金」、さらに「賞与」を加えた、ひとりあたりの給与が前年に比べてどれだけ上がったのか下がったのかを表したものです。「全産業」ですから日本全体です。

図表2を見ていただくと分かるように、コロナが始まり最初の緊急事態宣言が出た2020年の4月以降は前年比でマイナスが続きました。同年5月以降は、かなり大きく下がっています。そして、2021年3月からは現金給与総額は前年比で上昇に転じますが、前年の下げ幅をほとんどの月がカバーしていません。つまり、コロナ前の2019年の水準には戻っていないということです。

そこに、これからインフレがやってくるわけです。賃金の上昇がインフレ率を上回らなければ、当然のことながら消費は減退します。すると、どうなるか。景気回復に諸外国から取り残されている日本の景気回復がさらに遅れるのは避けられません。

2022年に入り、1月からはオミクロン株が日本全土を席巻しました。前回記事でも述べた景気に敏感なタクシー運転手さんなどに内閣府が毎月調査をする「街角景気(景気ウォッチャー調査)」も、2021年12月には景況感が良いか悪いかの判断基準となる「50」を大きく超えていたのが、2022年1月にはなんと「37」まで下がりました。前月に比べての19.6ポイントという大幅な下落幅は、東日本大震災があった2011年3月に次ぐ、過去2番目のものです。景況感が一気に下落したのです。

オミクロン株の蔓延は、それほど景況感に影響を与えており、GDP成長率の10~12月はある程度の回復が予想されるものの、1~3月は厳しいことが予想されます。

そうなると、企業は給与を上げることはできません。春闘での賃上げは期待薄です。岸田文雄首相が望む「3%」の賃上げは、企業物価の消費者物価への転嫁が進まないことだけでも厳しい中で、さらに厳しいものとなると考えられます。

そこにインフレが来るのです。