この5年間でアプリへの抵抗感はほぼ完全に消えた

【宮台】別の角度から、性的退却の問題を考えることにします。近年、日本では若者の性愛からの退却が進行していく一方、それと並行する形でマッチングアプリの利用が広がっています。そのマーケット規模は2015年に120億円、2018年には374億円に拡大しており、2023年には852億円にまで成長するだろうと予測されています。これは異様な膨張速度です。

マッチングアプリとは、結局のところ出会い系サービスであり、提供側がそれを「マッチング」と言い換えるというマーケティング戦略によって、ユーザーの心理的な抵抗感を軽減しているだけの話です。事実、僕が行ったリサーチでは、この5年間で、若者たちの間ではマッチングアプリを使うことへの抵抗感は、ほぼ完全に消えました。

それ以前は、マッチングアプリで出会って結婚に至った場合、結婚式の披露宴で二人のなれそめを紹介するときに、ストーリーを捏造ねつぞうしていたものです。本当はマッチングアプリで知り合ったのに、友人に頼んで「二人は共通の趣味のサークルに参加していて……」といった大ウソをついてもらいました。式場側がそうした大ウソを創作するサービスもありました。

写真=iStock.com/Cesar Okada
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若者たちは「性愛のいいとこ取り=つまみ食い」をしている

今は、披露宴で新郎新婦が堂々と「私たちはマッチングアプリで出会いました」と言えるようになりました。サービス認知度の向上で、「みんなも使っているから」という具合に、使うことへの後ろめたさがなくなったこともあると思われます。

グラフ(図表1)を見てください。日本ではすでにマッチングアプリを「現在、利用している人」が23.9%、「過去に利用していた人」が33.2%おり、「今後、利用してみたい人」を合わせると、全体の7割を超えます。

では、このマッチングアプリを通じた出会いが、若者たちの性愛関係を回復できるのでしょうか。結論的にはノーです。マッチングアプリを使っている人は、システム世界に依存して、性愛のいいとこ取り=つまみ食いをしようとしているだけだからです。そうした性格は、1985年に誕生したテレクラ以来、何の変化もありません。

先ほどの話を思い出してください。昔の男女の出会いは、まず集まりの場があって、そこで知り合った人同士が、同じ時空間を一緒に過ごしながらコミュニケーションを交わすうちに、気がついたら好きになっていたというものでした。だから、周囲にとっても自分にとっても意外な人と、恋に落ちてしまう。そのことこそが、意外なものへの開かれという意味で、性愛の喜びでした。