ニュージーランドに女性議員が急増

アーダーンはやがて、気候変動に懐疑的な野党議員たちが政界を去るのを見送ることができるかもしれない。現在50代後半で、かつては我こそがジョン・キーの後継者だと思っていたような議員たちだ。

現実には、まだ40代前半の女性がトップに立っている。アーダーンの存在は、ベビーブーマー世代からミレニアル世代へと、国の運営を明けわたす流れを加速させたといえよう。これから7年たてば、現在の若い議員――とくにクロエ・スウォーブリック(1994年生まれ)のような緑の党の議員たち――も、中堅どころになるだろう。

アーダーンの言葉に影響されて政界をめざした若い女性たちも、経験を積んでいるだろう。各地方自治体の議会では、2019年に選ばれた女性議員の数が前年よりぐっと増えた(それでもまだじゅうぶんではないが)。彼女たちが自治体運営の中心的立場になれば、これまでに見聞きした変革を、彼女たち自身の手で実現するかもしれない。

アーダーンは、こうした若い人たちに刺激を与えてきたのだ。生まれたときからずっと、議論の余地もなく、気候変動が世界の脅威だと考えて育ってきた人たち。いまはまだ政府が言葉にしているだけだが、言葉ではなく行動に移すことが、まずはなにより大切な一歩だ。全世界をみても、具体的な行動をとっている国はまだほとんどない。

写真=Staff/Dominion Post
選挙で選ばれたニュージーランド最初の女性首相ヘレン・クラークは、アーダーンのよき相談相手であり、理解者でもあった。

民主主義と平等を世界に広めたい

2008年に国会議員になってから、アーダーンは、民主主義と平等を社会に広めたい、若者の幸福に関する決定に若者自身が関与するようになってほしい、と話してきた。その結果、変化がまだまだ足りない、もっと抜本的な変化が起こってほしい、と考える若者たちの批判の目にさらされるようになった。

アーダーンがこれまでになしとげた改革は、アーダーンの個人的な、そして直感的な判断によるものが多い。世界の大国の多くでは、男性政治家が権力の座については、短期間でその座を追われている状況だ。

そして世界は、ジェンダーや宗教などのアイデンティティ問題に関して、大きな曲がり角にさしかかろうとしている。車のハンドルを握るのはアーダーンだ。うまく曲がりきれなければ、車は奈落の底に落ちてしまう。

しかしニュージーランドはこれまでも、そういうときのハンドルさばきがうまかった。とくに、女性政治家の台頭については世界の先を行っている。首相が在任中に出産をしたことさえ、とくに大きな騒ぎにもならず受け入れられた。海外では――女性が基本的人権さえ満足に与えられないような国ではとくに――そのようなことがあれば歴史的大事件としてとらえられるだろう。

現在のニュージーランドでは、国会の本会議場に赤ちゃんがいることも珍しくない。ただ、アーダーンとゲイフォードが国連総会にニーヴを連れていったことで、世界各国で女性リーダーの扱いかたは大きく変わってきたようだ。

クライストチャーチのテロのあとは、頭にヒジャブをかぶることで、ニュージーランドと世界をひとつにできた。トップに立つ人間がほんの小さな思いやりを持つだけで、これほどの変化を作りだすことができるということを、世界に示すことができた。