“ブラザーペナルティ”発生のメカニズム

ブラザーペナルティが発生する背景には、2つの要因があります。

1つ目の要因は、きょうだい構成による「親の行動パターン」の変化です。

親は自分と同じ性別の子どもの方が一緒の時間を共有しやすいという傾向があります。「父親は男の子」と「母親は女の子」と共に過ごす時間が長くなりやすいのです(※2)

このため、きょうだい構成によって、子どもが母親と父親のどちらの親とすごす時間が長くなるのかという点に違いが生じます。

「長女・弟」のきょうだい構成の場合、同性の親とすごす時間が長くなるため、影響も強く受けるようになります。

子どもはこの中でさまざまな行動や考え方、社会的規範を学んでいき、結果として、「長女・弟」の場合ほど、より伝統的な性別役割分業意識を持つようになると考えられます。

2つ目の要因は、「身近に異性がいることによる子どもの行動パターンの変化」です。

心理学の数多くの研究によれば、子どもは自分の兄弟姉妹と差別化することを通じて、個性を獲得する傾向があります(※3)。中でも異性の兄弟姉妹がいる場合、自分の性別に沿った行動や態度をとることで、個性を獲得すると指摘されています(※4)

つまり、弟がいる場合、長女の行動パターンが「よりお姉ちゃんらしく、女の子らしいもの」になると考えられるわけです。

このように、「長女・弟」の場合ほど、より自分の性別に合致した行動をとりやすくなり、これが伝統的な性別役割分業意識を持つことにつながると考えられます。

以上の内容を整理すると、弟がいる長女ほど、母親とすごす時間が長くなるだけでなく、女の子らしい行動をとりやすくなると考えられます。これが長女の性別役割分業意識に影響を及ぼし、成長後の就業や家族形成に変化をもたらす可能性があるのです。

欧米ではこのきょうだい構成の影響がデータで確認されていますが、日本ではどうでしょうか。

(※2)Brenøe, A.A., 2021. Brothers increase women’s gender conformity. J Popul Econ. 
(※3)Feinberg, M.E. , Hetherington, E.M. , 2000. Sibling differentiation in adolescence: implications for behavioral genetic theory. Child Dev. 71 (6), 1512–1524 。Plomin, R. , Daniels, D. , 1987. Why are children in the same family so different from one another? Behav. Brain Sci. 10 (1), 1–16 。
(※4)Abrams, D. , Thomas, J. , Hogg, M.A. , 1990. Numerical distinctiveness, social identity and gender salience. British J. Social Psychol. 29 (1), 87–92。Cota, A.A. , Dion, K.L. , 1986. Salience of gender and sex composition of ad hoc groups: an experimental test of distinctiveness theory. J. Pers. Soc. Psychol. 50 (4), 770。

日本では弟がいる長女ほど性別役割分業意識に賛成

図表1は日本のデータを用い、妹がいる長女と弟がいる長女で、どちらがより伝統的な性別役割分業意識に賛成意見を持つのかを比較しています。ここでは「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」に賛成しているかどうかで性別役割分業意識を計測しました。

図表1では、弟がいる長女の方が5%ほど「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」に賛成する割合が高いことを示しています。

5%というのは決して大きな差とは言えませんが、きょうだい構成は確かに長女の性別役割分業意識に影響していると言えるでしょう。

なお、この傾向は父親と母親の学歴や本人の年齢等の世帯環境を統計的手法でコントロールしても変化は見られませんでした。