垂直統合型ビジネスにこだわった結果
第二に、半導体産業の可能性を見誤り、変化への対応に出遅れ、そして頑固だったことだ。
技術の優位性で油断していた日本は、サムスンや台湾メーカーのような半導体ビジネスへの大規模投資に10年ほど後れを取る。1999年にようやくNEC日立メモリ(後のエルピーダメモリ)、2003年に日立と三菱の半導体部門の統合によるルネサス テクノロジ(現ルネサス エレクトロニクス)が設立された。
しかし、両社を含む日本企業の多くは、設計から生産までを一貫して手掛ける、以前からの垂直統合型ビジネスをかたくなに守った。その結果、設計と生産の分業という世界的潮流に乗り遅れ、その後のDRAM価格の暴落や円高によって業績を大きく悪化させる。エルピーダメモリは2012年2月に会社更生法の適用を申請。負債総額4480億円余りと、国内製造業としては戦後最大の倒産劇を演じ、最終的には米マイクロン・テクノロジに買収されることになる。
この間の秩序無き統廃合や技術の切り売り、リストラ、売却劇などは、あまりにも無残だった。優秀なエンジニアの海外企業への転職、頭脳流出などもずいぶん進んでしまった。
効率最優先と引き換えに失われたもの
第三にバブル崩壊以降、「会社は株主のもの、株主を重視せよ」という考え方が強まったことの影響も指摘せざるを得ない。「物言う株主・アクティビスト」が増えた結果、各企業は「利益最優先」「効率主義」を強く求められるようになった。コスト削減圧力が高まる一方、モノ作りへのこだわりや品質重視といった姿勢は軽んじられ、企業は財務健全化のために内部留保を増やし、研究開発費や設備投資を抑制した。
日本企業はコストを削減するため生産拠点を海外に移し、下請け企業にも国際調達や海外進出を促すようになる。当時、筆者は京都の中小サプライヤーに対し、中国大陸での調達のサポート、通訳、事業アドバイスを提供していたが、彼らは元請け企業から海外調達比率やコスト削減の目標を言い渡され、未達成の場合は取引を継続しない可能性をちらつかされていた。このように大手企業の方針によって中小企業までが海外進出させられた結果、日本の産業の空洞化が進むことになる。