「習近平は偉大だ」と何度も書かされる
ここでも、彼女に選択肢はなかった。毎週金曜日、メイセムは自宅近くの政府庁舎で行なわれる市民教育の授業に参加した。それぞれの教室には部屋の隅に1台ずつ、計4台のカメラが設置されていた。
「党を愛しています! 習主席は偉大な最高指導者です!」とメイセムはノートに何度も書かなければいけなかった。
「新疆の3つの悪とは?」と教官は尋ねた。
「テロリズム、分離主義、宗教的過激主義です!」と受講生たちは口をそろえて答えた。
毎週月曜日には、警察が3時間にわたってメイセムの思想について尋問した。
「なぜ中東の国に行くことを選んだんですか?」と取調官のひとりが彼女に訊いた。きまって3人の警察官が眼のまえに坐って質問し、答えをコンピューターに打ち込んだ。
「わたしは大学院で勉強をしているんです」と彼女は説明した。「自分の教育のためです」
「教育ですか、なるほど」と取調官は言った。「どのような種類の教育ですか?」
「ただの社会科学です」
「社会科学を学んでどうするんです? あなたはどのような分離主義的考えを抱いていますか?」
べつの取調官が口を開いた。「知り合いの人たちは、あなたは本を読むのが好きだと証言しています。幼いころから読書家だった、と。あなたのような女性が、なぜそれほど多くの本を読む必要があるのですか?」
何週にもわたって尋問と授業が続いた。相手は言葉を変えながら同じ質問をひたすら繰り返した。そのうちメイセムは、執拗なまでの心理戦に疲れ果ててしまった。
「何度も言いましたが、わたしはただの学生です」
「中東では、どのような過激派と接触したことがありますか?」
「接触などしたことはありません!」
警察の実際の目的は、尋問や授業をとおしてその人物についてのデータをできるかぎり多く集め、将来の行動を予測することだったとのちにメイセムは学んだ。彼女以外にも数十人のウイグル人が、同じような経験をしたと私に話した。
「健康診断、尋問、ガーさんの訪問……当局は、AIシステムのためにできるだけ多くのデータを集めようとした。ソフトウェアがそのデータを分析し、誰が罪を犯すのかを予測する。そういう流れのようでした」とメイセムは言った。