お金を貸している人も貯蓄をする人も損をする
とはいえ、どちらかといえば、インフレで損する人のほうが多い。インフレ率が予想を超えると、お金を貸している人も貯蓄をする人も損をする。どちらも利子を稼いでいて、その利率はインフレも考慮して決まっている。しかし実際のインフレが予想したインフレを上回ると、お金を貸す人も貯蓄する人も期待通りの利子が稼げなくなってしまうのだ。
たとえば、あなたが銀行の定期預金に1000ドル(約11万5000円)入れたとしよう。金利は年に4%だ。予想したインフレ率は2%だったが、実際は5%になった。すると定期預金の実質金利はマイナス1%(4%-5%)で、むしろお金が減ってしまうことになる。もちろん1年で40ドル(約4600円)の利子はもらえるが、今の1040ドル(約11万9600円)は1年前の1000ドル(約11万5000円)より購買力が落ちている。
低所得者、年俸制社員、年金生活者は打撃を受ける
インフレは低所得の人ほど打撃を受けるとされている。低所得の人は、高所得の人に比べ、資産の中で現金の占める割合が高い。高所得の人も当然ながら現金は持っているが、資産の多くを他の金融資産や実物資産の形で持っている。インフレになると現金の価値が下がるので、資産をほぼ現金で持っている低所得者が大きな打撃を受けることになるのだ。高所得の人は、たとえ現金の価値が下がっても、インフレで現金以外の保有資産が値上がりすれば、現金での損を埋め合わせることができる。
決まった収入額で暮らしている人もインフレで損をする。想像以上のインフレが起こると、実質的な所得が目減りすることになる。年俸が決まっている会社員や、年金暮らしの高齢者は、実際のインフレ率が予想のインフレ率を上回っているかぎり購買力が落ちていく。
この影響を和らげるために、会社員にとっては会社、年金生活者にとっては政府が、「物価スライド」という方法で実際のインフレ率に合わせて支給額を調整している。しかし、それでも損失を避けることはできない。インフレと支給額の調整の間にはどうしてもタイムラグがあるからだ。予想を上回るインフレが長引くと、収入額が決まっている人たちは、収入増加がインフレよりも少し遅れてやってくるというゲームを延々と続けなければならない。