イラク戦争直前、金正日は動静を秘匿した

2003年1月、北朝鮮は核拡散防止条約からの脱退と国際原子力機関(IAEA)保障措置協定からの離脱を宣言。米朝枠組み合意は完全に崩壊し、「第2次核危機」が始まった。

米国の反応は速かった。2月には核施設への先制攻撃を示唆。実際に同月16日、米空軍は在日米軍基地にF-15戦闘機とU-2高高度偵察機などを増派している。28日にはラムズフェルド国防長官がB-52戦略爆撃機12機、B-1戦略爆撃機12機をグアムへ配備するよう命じた。

この時期、米国のイラクへの武力行使は必至の形成になっていた。中国は北朝鮮に対し、イラクの次に攻撃される危険性を間接的に警告。多国間協議に応じるよう説得したが、北朝鮮は拒否した。そして、2月26日には北朝鮮の原子炉の再稼働が確認された。

イラク戦争開戦(2003年3月20日)直前、韓国で最大規模の米韓合同演習「フォールイーグル」(2003年3月4日~4月2日)が行われた。金正日は、米軍が演習名目で米国本土から韓国へ兵力を増強し、イラクの前に北朝鮮を攻撃してくることを恐れて動静を秘匿した。常ならばほぼ毎日「労働新聞」に金正日の動静が掲載されているが、2003年2月12日~4月3日の間は載らなかったのだ。

しかし、結局、イラクへの攻撃が開始されたことで北朝鮮への武力行使は行われなかった。米軍の戦力では、一度に2つの地域で戦争を遂行することは不可能だったからだ。

写真=iStock.com/Laurent Gachnang
※写真はイメージです

中国参戦の局面で敵基地攻撃能力が発揮される

核兵器と大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有した北朝鮮に、今後米国は完全非核化とICBMの廃棄を要求するだろう。しかし、北朝鮮が無条件で受け入れることはない。

やむなく米国が北朝鮮の核関連施設に対する空爆に乗り出した場合、北朝鮮も黙ってはいない。北朝鮮攻撃の拠点となる在日米軍基地への攻撃を行うと脅すだろう。

こうなってくると、中国が介入する可能性が高い。中国にとっては、金正恩が最高指導者である必要も、国号が「朝鮮民主主義人民共和国」である必要もない。だが、朝鮮半島の北半分は、中国と米国との緩衝地帯、すなわち、中国の安全保障に寄与する地域である必要があり、米国の影響下に置くわけにはいかないのだ。結果として、第2次朝鮮戦争、すなわち、米国・日本・韓国対中国・北朝鮮の戦争が勃発する。

中国が参戦し、日本を弾道ミサイルで攻撃してきた場合は、中国東北部の吉林省などに配備されている、日本を攻撃目標とする弾道ミサイル基地を破壊しなければならない。

「敵基地攻撃能力」とはこのような事態になって発揮される。