日本と北朝鮮の二国間世戦争は起こり得ない

日本と北朝鮮の二国間で戦争が起きる可能性はゼロといっていい。米朝関係と関係なく、いきなり日本にミサイル攻撃を行うことは、いくら北朝鮮でも実行しない。日本が攻撃を受ければ必ず米国が登場してくるからだ。北朝鮮が日本にミサイル攻撃を行うことは米国への宣戦布告を意味しており、米朝関係が極限まで緊張した場合にしか起こり得ない。

そうした事態が生じるとしたら、原因は何か。それは、米国が北朝鮮に完全な非核化と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の廃棄を要求し、北朝鮮が強く反発して「第3次核危機」が起きたときだ。

「被害甚大」米国が武力行使を断念した第1次核危機

過去の核危機について振り返っておこう。

1993年3月、北朝鮮はIAEAによる二度目の特別査察を拒否し、核拡散防止条約(NPT)の脱退を表明した。「第1次核危機」はここから始まっている。これを受けて米国が同年6月2日、米朝協議第1ラウンドを開始し、北朝鮮はNPT脱退の保留を宣言した。

北朝鮮の核開発に関する米朝二国間交渉はその後も続き、6カ国協議も行われたが、結局非核化は進まなかった。

第1次核危機で米国は北朝鮮に対する武力行使を検討していたが、実行に移されることはなかった。断念した要因の一つは、米国側の損害が大きすぎることだった。

1994年5月4日、在韓米軍司令官ゲリー・ラック大将(当時)は「北朝鮮は国境地帯に8400の大砲と2400の多連装ロケット発射台を据えており、ソウルに向けて最初の12時間で5000発の砲弾を浴びせる能力がある。もし再び戦争となれば半年がかりとなり、米軍に10万人の犠牲者が出るだろう」と発言した。

米国本国では、同5月18日、作戦検討会議が開かれた。ペリー国防長官がシャリカシュビリ統合参謀本部議長に先制攻撃計画の策定を命じたことによる。北朝鮮では核燃料棒交換作業が進行している最中だった。

ここで立てられた作戦計画は、F-117ステルス戦闘爆撃機や巡航ミサイルで、北朝鮮西部の寧辺に集中している核関連施設を空爆するという内容だった。だが導き出された推計は、ゲリー・ラック大将の発言同様、甚大な被害を予見させるものだった。

全面戦争に発展した場合、

「緒戦の90日間の死傷者は米兵5万2000人、韓国兵49万人」
「全面戦争になればソウルの市街地でも戦闘が展開され、アメリカ人8万~10万人を含めて軍・民間の死傷者は100万人以上」
「韓国経済の損害総額は1兆ドル(現在のレートで約115兆円)」

というのがその内容だ。

6月16日には、大統領特使として訪朝したジミー・カーター元大統領と金日成の会談が実施。同10月に、北朝鮮の黒鉛減速炉および関連施設の軽水炉型発電所への転換についての協力などの4点を柱とする米朝枠組み合意に署名がなされ、第1次核危機は決着した。