サマータイムは効率的だがデメリットも
年に2回、国を挙げて時計を1、2時間ズラすという年中行事があります。日本にはありませんが、海外の多くの国で採用されているサマータイム(夏時間)です。
日の出が早くなる夏の時期は時計を1、2時間進め、秋になると元に戻すというもので、日本でも第二次世界大戦後の一時期に実施されたことがありますが、わずか4年で終わってしまいました。
サマータイムには、太陽が出ている時間を有効に活用し、余暇の時間を充実させるというメリットがあります。その一方で、人為的に時差を生じさせることで、体内時計をズラしてしまうというデメリットがあります。
事実、サマータイム制を導入している欧米諸国では、サマータイム移行直後の約1週間事故が多くなることが報告されています。その理由として、時差ぼけの場合と同じように、眠気や注意力の低下などが挙げられています。さらに、急性心筋梗塞やうつ病などの気分障害が発生するリスクも高くなっています。
そのため、ヨーロッパではサマータイムが「ソーシャル・ジェットラグ」(社会的時差ぼけ)を引き起こしているとして、廃止を求める声も少なくありません。
日本でもサマータイム復活が議論されたが…
ごく普通の日常生活を営んでいたり、事務的な作業をしている限りは、何かミスをしても、「あ、しまった」で終わるのですが、時と場合によってはそれでは済みません。公共交通機関やトラックの運転手をはじめ、人の命を預かる仕事では、より慎重に考えることが求められます。
日本では一度廃止されたサマータイムですが、復活させてはどうかという機運が高まったことがありました。環境対策やエネルギー節約、さらには猛暑が予想されたオリンピック対策として検討されたようです。確かに、日の出が早くなる時期には、早く仕事に出かけて明るいうちに帰るというのは、エコロジーの観点からすると効果的かもしれません。
しかし、体内時計を無理やりズラすことになるため、人体の生理機能に悪影響があることは見逃せません。私も所属している睡眠学会や日本時間生物学会は、医学生理学的な面から科学的根拠をもとにして反対の声明を出しています。たった1時間と思われるかもしれませんが、体内時計をいきなりズラすというのは、体にとって大きなストレスになってしまうのです。