「ひとりで出かけたい」と警官に頼んだら…
——ヒルトン東京ですね。
【ポール】イエス。警察にがっちりガードされていた。たぶん警察の恥になるような事件を起こされちゃ困るって、みんなが心配してたんじゃないかな。ほら、警備がずさんだったと言われちゃうような事件を起こすと思っていたんだよ。
ぼくらは24時間、見張られていた。ある日ホテルから出ようとしたんだ。皇居を見たくて。ぼくは自由の身なんだ、警察の言うことなんか聞く必要はない。警護してくれているかもしれないけれど、ぼくは勝手に行動したかった。それで部屋から出たら、警官のひとりが追いかけてきて「同行させてください」って頼むんだよ。
「嫌だ、ひとりで出かけたい! プライベートな人間なんだ」って答えたら「お願いします! お供させてください」……。その時、気がついた。(もし、ぼくが勝手に出かけたら)この人は警官をクビになっちゃうんじゃないかって。だから、出かけるのはやめた(笑)。
——当時、警察官と消防隊員の約4万人が警備にあたりました。わたしは警察官と消防隊員にインタビューしましたが、彼らは、今でもあの日のことを誇りに思っているそうです。子どもたちには「自分はビートルズの警備をしたんだ」と話すのです。
あんなコンサートは今までになかった
【ポール】おもしろいなと感じたのは警察がファンを道路から排除して、数カ所に集めたこと。だから車が走っていく道路脇には誰もいないんだ。車が曲がり角に近づいてきたら「キキキキィーーー(ブレーキを効かせながらコーナリングする音のまね。これが恐ろしく上手)」そして誰もいない道に出る。しばらくすると(ファンが集まった)交差点がまた近づいてくる。「キィキィキキィーーー」。目的地までずっとこれ。
武道館に勢ぞろいした兵隊(訳注:警官と軍隊を間違えている)にもびっくりしたね。会場の一列目が兵隊の列。あんなコンサート、今までにはなかったね。それほどの警備は必要なかったと思うけど。でも脅迫状が何通か届いてたらしいから仕方がないのかもしれない。
武道館は神聖な会場なのにぼくたちがコンサートをすることで侮辱されたと感じた人たちがいたからね。でもそんなことは終わるまで何も聞かされてなかったし、ぼくたちの知ったことじゃなかった。ぼくらの仕事は指定された場所で演奏するだけだから。