貼らずに塗る消炎鎮痛剤「アンメルツ」

まだ消費がほとんどない市場を狙い、発売した外用消炎鎮痛剤「アンメルツ」は、肩こりにともなう肩の痛みや筋肉痛を緩和する医薬品です。もともとは医薬品の卸業を本業としていた小林製薬にとって、ブルーレットやサワデーよりも親和性が高い商品であり、発売は1966年でした。

肩こりや腰痛に効く液体状の塗り薬「アンメルツ」(画像提供=小林製薬)

当時、肩こりや腰痛の消炎鎮痛用の薬といえば、日本では貼り薬でした。それに対して、アンメルツは液体状の塗り薬であり、既存の商品とは「どこか違う、どこか新しい」特性をしっかりと保有していました。

ただ、この種の商品がなぜか、米国ではさほど注目されていなかったように記憶しています。肩こりに悩む人が日本人ほど多くなかったからでしょうか。

それでも、日本では大きな需要が期待でき、「貼る」という需要に対して「塗る」という柵を立て、囲い込むことによって、「小さな池」をつくることを目論んでいたわけですが、当時の日本の技術では、使い勝手のよい製品にするのが難しく、開発は難航しました。

すぐには売れない経験が次の大ヒットにつながった

アンメルツは、容器の上部に取り付けたラバーを患部に押し当て、中の液体を出しながら患部に塗っていきます。問題は液の量で、ラバーの厚みやスプリングの強さで調整しますが、なかなかひと押しで適量を出すことができませんでした。あるときは液が出過ぎ、あるときは全然出ないといった状態でした。

小林一雅『小林製薬 アイデアをヒットさせる経営』(PHP研究所)

また、キャップを閉めても中から液が漏れてくるとか、温度によって出る量が変わるといった問題もありました。いずれも難題で、一時は米国のメーカーから製品を仕入れ、当社は販売だけ行う方法も考えましたが、最終的に数年の開発期間を経て、製品化にいたりました。

にもかかわらず、発売当初は、ブルーレットと同様に大ヒットといえる結果は出ませんでした。肩こりに薬を使うことの多い高齢者は、長年の習慣をなかなか変えないことも予測はしていましたが、「貼り薬」でなく「塗る薬」ということに、すぐさまピンとこなかったからでしょう。

それでも、販売を続けるうちに、次第に認知され、多くのお客さまに手にとってもらえるようになっていったのです。

今にして思えば、このアンメルツ、そしてブルーレットが、当初から好評だったとはいえ、即座に大成功をしなかったこと、それでもそこであきらめなかったこと、そしてメーカーとしての事業の成功に執念を燃やし続けたことが、サワデーの大ヒットを呼び込んだのかもしれません。

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