脱炭素政策をめぐっては、政府の目標と日本自動車工業会(自工会)の主張が平行線をたどっている。コンサルタントの早瀬慶さんは「両者の視点と目標がズレたままでは競争力を失うばかりか、国際社会でも日本の言葉に耳を貸す国はいなくなってしまう」という――。
オンラインで記者会見する日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)=2021年11月18日
写真=時事通信フォト
オンラインで記者会見する日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)=2021年11月18日

2050年までに「脱ガソリン、脱ディーゼル」を掲げているが…

政府は2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言している。これは、CO2だけに限らず、メタン、N2O(一酸化二窒素)、フロンガスを含む「温室効果ガス」の排出を全体としてゼロにするということである。「全体としてゼロに」とは「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ということである。排出を完全にゼロに抑えることは現実的に難しいため、排出せざるを得なかったぶんについては同じ量を「吸収」または「除去」することで、差し引きゼロ、正味ゼロを目指そうというものである(※)

※参照:資源エネルギー庁「CO2削減の夢の技術!進む「カーボンリサイクル」の開発・実装

その内訳として、自動車関連では「電気自動車のために公共の急速充電インフラを3万基に。うち1万基は既存のインフラを有効活用するためサービスステーションに設置」「(普通充電を含む)充電インフラを15万基に」「水素ステーションは1000基程度」などを掲げており、脱ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンという脱内燃機関を推し進める考えが見える。国際社会の各ステークホルダーが脱炭素変革に向けて急速に動き出している中で出遅れるわけにはいかないからである。

主張が食い違う自工会との「大きな溝」

一方、業界団体の日本自動車工業会(自工会)は、カーボンニュートラルの方向性に異論はなく、CO2の削減にも取り組むものの、欧州などによる内燃機関車を禁止する方針に対して「敵は炭素であり、内燃機関ではない」と牽制している。これは、一概に脱内燃機関が目的化することを懸念しており、さらに言えば、電動化=BEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー式電気自動車)の図式の浸透に警戒感を強めている。

なぜなら、バッテリーとモーターで成り立つクルマへのシフトは、長期にわたり培ってきた内燃機関を中心にした日本の自動車産業の競争力を失わせることにほかならないからである。

【図表1】ただでさえ厳しい事業環境に置かれている

両者の主張の食い違いはどこから生まれているのだろうか。自動車は大きく、一般消費者が所有する乗用車と事業者が所有・利用し、貨物輸送や旅客輸送するためのトラックやバスなどの商用車に大別される。事業モデルや利用シーンも異なれば、パワートレイン(※)に求められる要件も異なる。

世界の販売台数に占める割合が乗用:商用=3:1から2:1にシフトする中で、概して「自動車=ほぼ乗用車」という認識で語られることに大きな溝を生む要因がある。商用車のプレゼンスが高まる昨今、利用される業界や地域、規模によっても要件が異なる商用車をまとめて考える点にも無理がある。

※車の動力源で、エンジン、クラッチ、トランスミッションなど。