ただ、各自動車メーカーには、商用車・乗用車のラインナップ、国・地域、アライアンス等の戦略やパワートレインの得手・不得手等の違いがある。総論ではこれまで培った内燃機関を軸にした自動車バリューチェーンの死守・拡大(一部延命)とそれに伴う雇用維持に賛同するものの、経営目線が異なる上に、局地戦では、互いにライバルにも成り得るため一枚岩にはなっていない。
視点も目標もズレたままの日本を襲う「ホラーシナリオ」
以上の通り、政府と自工会のズレを踏まえた上で、日本としてどのような手を打つべきか。まず、現状の視点、認識、目標等のギャップを解消しないまま時が進めば、国、産業、企業、消費者の各レベルに負の影響を及ぼすホラーシナリオが想定される。
例えば、「日本の自動車産業競争力の喪失とグローバルプレゼンスの低下」である。
日本の自動車産業はこれまで、内燃機関系で培った自動車のバリューチェーンを軸に、各社(また日本国)のモノづくりの思想や品質に基づくブランド、安定的なサプライチェーンなどのあらゆる点で、確固たるグローバルポジションを築いてきた。これに対して、BEVは単にエンジンがバッテリーとモーターに置き換わるというパワートレインの生産・組み立ての話ではなく、車体の企画・設計から部品調達、整備やメンテナンス、再利用、廃棄まで、あらゆるバリューチェーンの置き換えを発生させる。
つまり、これまでの長い歴史で培ったノウハウやアセット等の質や量での勝負ではなく、今この瞬間からの横一線の競争になるのである。
そうなると、保有するマーケット規模に比例する投資額の大きさや、規制・ルールを自国優位に進める政府との連携の強さが勝敗を分けることになり、例えば中国といった新興国が相対的有利なポジションを取ることにつながる。加えて、従来型自動車産業の強さ(裾野の広さ)が、カニバリゼーションを起こしかねない意思決定の足枷になれば、日本やドイツはより不利な状況に陥ることになる。
日本陣営の言葉に耳を貸す国はなくなってくる
さらに、自動車産業で官民が真に一体にならなければ、競争力を失うばかりか国際社会で日本の存在感が薄まることにつながっていく。方向性がバラバラの日本陣営の言葉に耳を貸す国はいなくなってくるのである。この点はドイツをはじめとする欧州勢は歴史的に非常に長けている。
例えば、近年、これまで日本自動車産業の圧倒的牙城であったタイにおいて日本のプレゼンス低下の兆しを見せているのは、この「始まり」であろう。現実に起こってほしくないが、可能性としてあり得るホラーシナリオの1つの側面である。