不動産価格の調整は必ず起きる

不動産価格の急落は、後ろに張り付いている融資の焦げ付きを意味する。よって金融システムが毀損きそんし、経済全体に甚大なマイナスの影響をもたらす。日本のバブル崩壊やリーマンショック後に世界で起きた惨状を中国政府が避けたいと思っているのは当然のことだ。

問題は「価格の調整をどうやって行うのか」ということである。不動産価格の最終目標が平均年収の5~6倍とした場合で、現在の不動産価格を下げずに達成しようとすれば年収を10倍に上げる必要がある。今の中国でいきなり年収を10倍にするのは不可能だろう。

では高すぎる不動産価格が長期にわたって上がりも下がりもしないという状況は起こりうるのだろうか。これは「これからの値上がりが期待できない不動産に、借金をしてまで投資するのか」という問題になる。単純な投資損益を考えてみよう。この場合はキャピタルゲインが得られないので、金利負担がマイナス要素として発生することになる。

写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
※写真はイメージです

例えば年収200万円の人が、年収の60倍にあたる1億2000万円の物件を買ったとする。住宅ローンの金利が5%であるとすると(中国の住宅ローンの水準は5%程度とのことだ)、年間の金利負担が600万円。利払いだけで年収の3倍となれば、物件の購入には相当の覚悟が必要だろう。

「買う」という決断ができるのは、金利負担や取引コストを考慮してもなお、利益が出るレベルまで物件価格が値上がりすると見込まれる場合である。つまり、値上がり期待がない限りは買わない。価格が横ばいなのに高すぎる不動産が売れ続けるというシナリオは成立しないのである。

物件が売れなければデベロッパーの資金繰り問題も解決しない。特に中国のように不動産価格の前払い、つまりデベロッパーのクレジットリスクをそのまま取るようなシステムの場合はなおさらである。

中国共産党は「バブル崩壊」を先送りしているだけ

次に不動産価格が適正価格まで値下がりする前提に立ってみる。年収の5倍程度まで下がるとすると最終的に1戸あたり1000万円くらいということになり、92%くらい価格の下落が起こることになる。いきなりそこまで下がると暴落、バブルの崩壊以外の何物でもないため、そのシナリオは論外となる。

急なのがだめなら、ゆっくりということで、例えば1年で3%くらいの調整が続くとする。その場合は適正価格になるまで30年間毎年3%ずつ下がり続けることになる。なおこれは単利で計算した場合で、複利では毎年8%程度の下落となる。

30年もの間、延々と値下がりつづけるものを借金して買う人はいない。少しでも高く売れる間に売却しようと売りが殺到するだけである。いずれにしても「これから価格が上昇する=儲かる」と思わなければ新たな買い手はつかない。