キャストにしか見られない美しい光景

東京ディズニーランドの閉園時間は午後10時(これより早い時期もある)で、終礼が午後10時20分前後に始まる。クローズキャストの中には片道2時間程度かけて通っている人もいた。神奈川県の平塚、千葉県の君津、埼玉県の上尾、東京都の高尾などである。

高尾から通勤する広野君は、定時の午後10時半に退社しても、家に着くのが午前1時近くだという。好きでなければ続けられない仕事である。クローズキャストにあって、オープンキャストにはない役得が、午後8時半から始まる花火だ。

“夢の国”での楽しかった1日の終わりが近づいたころ、シンデレラ城の上空に大輪の花を咲かす花火は何度見ても心を奪われる。キャストデビューした当初は、花火が打ちあがると、掃除の手をとめて見とれていた。

「笠原さん!」

突然、名前を呼ばれて、あわてて振り向いた。原崎さんが立っていた。原崎さんは40代のダンディーな男性SVで、キャストにもいつも毅然と指導するお目付け役だった。

「あなたはゲストじゃなくてキャストなんですから、露骨に見入らないでください」

“現行犯”である。ぼうっと空を見あげる姿を見られていたかと思うと恥ずかしかった。また、ゲストがいなくなり森閑しんかんとしたオンステージの光景の美しさは、今でも脳裏に焼き付いている。これもまたクローズキャストだけの役得だった。

優越感に浸りながら帰路につく

いくつかの役得はあったものの、家に着くのが午後11時半すぎになってしまうクローズキャストはやはり自分の生活パターンに合っていなかった。私はオープンキャストへの異動願いを出し、キャストデビューして約9カ月後、希望どおりオープンキャストに変わることになった。

笠原一郎『ディズニーキャストざわざわ日記』(三五館シンシャ)

オープンキャストが良い点は、仕事のスタート時にオンステージが汚れておらず、またトラッシュカンのゴミを回収する必要もないので作業的に楽なことである。夜のあいだ、ナイトカストーディアルキャストが清掃してくれたおかげである。

出勤時には、ちょうど退勤するナイトカストーディアルキャストに遭遇する。夜通しの作業となる彼らの多くは男性であるが、中には若い女性の姿もあった。ナイトカストーディアルは時給が高い。接客が苦手な人にとっては都合がいいとはいえ、冬場の寒い日や雨の日などに夜通し作業するのはたいへんだなと頭が下がる。

オープンキャストに異動して、もっともありがたかったのは帰宅時間が早まったことだ。夏などまだ太陽が高い、午後4時ごろに帰路につくことができる。こんな時間に仕事を切り上げるのはサラリーマン時代には考えられない。帰りの電車でスーツ姿の人を見ると、「こっちはもう終わったよ」という優越感に浸るのであった。

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