強制的な貯蓄過剰が続く

昨年、主要先進国の中で日本だけが大きなマイナス成長を断続的に繰り返し、金融市場では株や為替が低調な動きに終わったことは記憶に新しい。春先以降、年の半分を何らかの行動制限と共に過ごしたのだから当然の帰結である。成長率の仕上がりはそのまま物価ひいては金融政策の仕上がりに直結し、実質・名目双方のベースで円相場を押し下げた。

資源価格が騰勢を強める中、円が減価しているので日本経済の交易条件(輸出物価÷輸入物価)は当然悪化し、交易損失の拡大をもたらす。

交易損失の拡大は理論上、実質賃金の下落を意味するので家計部門の生活実感は確実に悪くなる。海外から見れば「安い日本」が仕上がる話であり、昨年、方々でそうした特集が展開されたことは周知の通りである。

世論が行動規制の厳格化を望んでいるとしても、それが成長率押し下げを通じて「安い日本」の遠因になってしまっている事実を為政者は認知し、もっと情報発信すべき段階にあると筆者は考える。

今、まさに昨年と同じ道を歩もうとしており、それは円相場で言えば、「50年ぶりの円安」をさらに下押しする可能性を示唆する。

日本経済の貯蓄・投資(IS)バランスは家計・企業(以下民間)部門共に過去に経験のない水準まで過剰貯蓄が積み上がっており、政府部門の消費・投資で何とか底割れを防ぐ状況にある(図表1)。

民間部門の消費・投資が盛り上がらない状況で物価が上がるはずもなく、物価が上がらないので金融政策も現状維持が続く。インフレ懸念と共に正常化プロセスを急ぐ海外の金融政策とは乖離かいりが大きくなり、円安は(とりわけ実質ベースで)進みやすくなる。行動規制は民間部門に貯蓄を強いる政策であるため、この傾向は1~3月期、強まるはずである。

問題は解除タイミング…厳格な規制を求める世論になびく功罪

過去の経験を踏まえれば、問題は発令よりも解除のタイミングである。解除の際は楽観ムードが強く忘れられがちだが、規制されても解除判断が迅速ならば被害は限定される。

昨年は日本のワクチン接種率が猛烈なペースで上昇し、米国のそれを抜き去るという動きが認められながらも、緊急事態宣言の延長が漫然と繰り返された。夏場に至るまでは五輪開催を前に緩めることができないという見方もあった(結局、五輪開催中も緊急事態宣言だったが)。

この点、今年は7月に参院選を控え、世論が厳格な規制を支持しているという状況にある。政治的には早期解除に至るインセンティブが大きくないと言わざるを得ない。

もっとも、今回は東京都が病床使用率を要請の基準(20%以上で「まん延防止等重点措置」、50%以上で「緊急事態宣言」の発令を要請)としてあらかじめ示している。