個人消費、物流、生産、設備投資が回復しない
ここへきて、中国経済の安定成長期への転換が鮮明化している。これまでの中国経済を振り返ると、1978年に始まった“改革開放”から2010年代の半ばまで、中国経済はトレンドとして2ケタ実質GDP(国内総生産)成長率を維持した。
特に、リーマンショック前まで中国経済は“世界の工場”としての存在感を発揮し、輸出主導で高い成長を遂げた。民間IT先端企業の成長も高成長を支えた。不動産開発を中心とする投資によって共産党政権は経済成長率をかさ上げし、10%前後の実質GDP成長率を維持した。改革開放以降の約30年間、中国経済は高度経済成長期にあった。
しかし、2014年ごろから中国経済の成長率トレンドは低下している。過剰投資が重なった結果として資本の効率性は低下し、不動産投資による高い成長率の実現が難しくなっている。それに加えて、コロナショックが発生し足許では感染が再拡大している。経済運営に不可欠な動線が寸断され、中国の個人消費、物流、生産、設備投資などはなかなか立ち直れない。世界第2位の経済規模を誇る中国経済の減速傾向は、世界経済に重要なマイナスの影響を与えることが考えられる。
中国の経済成長は曲がり角を曲がった
コロナショックをきっかけに、中国経済は高度経済成長期から中程度の経済成長期へ曲がり角を曲がった可能性がある。それは、中国の実質GDP成長率の趨勢(トレンド)の変化から確認できる。具体的な確認方法として、国際通貨基金(IMF)の『世界経済見通し』に収録された1980年以降の年間実質GDP成長率の5年間の移動平均値を計算する。
計算された値を時系列に並べて確認すると、2013年まで実質GDP成長率のトレンドは10%前後の高い水準を維持した。リーマンショック後は共産党政権が4兆元(当時の邦貨換算額で約57兆円)の経済対策を実施して不動産投資などを積み増したことが高い経済成長を支えた。
2014年に実質GDP成長率のトレンドは8%台に低下した。2014年は習近平国家主席が、中国経済が“新常態”に入りGDP成長率はいくぶんか低下するだろうとの認識を示しはじめた年だ。8%の実質GDP成長率の維持は、中国が完全雇用を達成するために不可欠な成長率のレベルと考えられている。つまり、新常態の本質は不動産投資やインフラ投資、さらには“中国製造2025”や“21世紀のシルクロード経済圏構想(一帯一路)”などの政策を総動員することによって共産党政権が雇用を生み出し、悠久の経済成長を目指すという意思表明だったと考えられる。