美女がいれば既婚者であっても声をかける

恋はしばしば道ばたでのナンパではじまる。桑摘くわつみの季節になると、女性たちは桑畑で葉を摘む。それはウメの実が落ちはじめる晩春である(*2)。そこに美女がいると、未婚か既婚かを問わず、男性陣はすぐに声をかける。

もし佩玉はいぎょく(アクセサリーの1種)をもらえればOKのサイン。ある男は妻とともに田畑に出かけ、近くの桑畑で働く美女を口説いている。だが失敗して田畑にもどってみると、妻は怒ってその場を立ち去っていた(*3)

なかには数年間の単身赴任を終えて郷里に帰った者が、途中で美女に声をかけたところ、じつは自分の妻だったという、喜劇とも悲劇ともつかぬ説話もある(*4)。夫が道ばたで桑摘み中の美女をナンパし、振り返ってみると妻もべつの男性に言い寄られていたとの笑い話もある(*5)

かの孔子さえ弟子をけしかけて、川辺で洗濯中の女性を口説かせ、失敗している(*6)。似たような説話は春秋時代から南北朝時代の史料に数多くみえ、古来どこにでもみられる風景であったらしい。

「イケメンを求めたのに、ガマガエルがきた」と嘆く女性

いざナンパをするときには、戦国時代以前の貴族社会であれば、男性が女性に歌をうたい、女性がそれに返歌をするというやり方がとられた。それによって恋愛感情をたしかめあってゆくことを歌垣うたがきとよぶ。

歌垣にさいしては、女性もドキドキしながらイケメンを求める。女性が「イケメンを求めたのに、ガマガエルがきた」と嘆く詩もあっておもしろい(*7)

もっとも、うまく詩歌をよめる者など、周代の貴族くらいのもので、庶民はもっとダイレクトにナンパをしていることが多い。ともかくこのようにして人びとのあいだに恋愛関係が生まれる。なかには悶々もんもんとした日々を送る者もおり、ある男性は、城門を行き交う女性たちに目もくれず、好きな人に想いをせている(*8)。どうやら奥手おくてらしい。

一方、恋愛関係は壊れることもある。城のはずれでは、ひとりの女性が「これであの人とももうお別れ。だれにもバレないうちでよかったのよ」と泣きながら、カンザシを燃やしている。どうやら失恋をして、彼氏にもらったプレゼントを燃やしているらしい(*9)

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ほかにも尾生びせいという人物は、女子とデートの約束をし、橋のうえで待ち合わせをしたが、すっぽかされてしまった。しかしかれはたいへんマジメで、やがて水かさが増してきたにもかかわらず、その場から立ち去ろうとせず、とうとう橋にしがみついたまま溺死できししたといわれている(*10)