落合博満氏と「似たところがある」
広岡には監督時代にインタビューしたことがある。冷徹に選手の能力を評価する厳しい人だった。彼が編み出した「日本シリーズは第7戦までの戦略をすべて考えて臨む」というのは、今はどの球団も取り入れているはずだ。
話題の本『嫌われた監督 落合博満』(文藝春秋)を書いた鈴木忠平は、落合と新庄は似たところがあると北海道の経済誌『財界さっぽろ』でいっている。
「これまで当たり前だったことを疑い、その逆のことをやった。それによって相手チームはもちろん、自軍の選手や球団幹部までもが落合は次に何をするのかと、その一挙一動を注視せざるを得なくなった。
新庄が注目されたのも突きつめれば同じ理由だった。
神聖なグラウンドにバイクで入ってはいけません、ノックは真面目に受けなければなりません。真面目とは、かぶりものをしたり、髪を黄色に染めたりしないことです――そうした野球界の旧弊をスマイルとともに打ち破っていった。その度、視線は集まった。
ルールの内側にいる者たちは、その外側で生きる落合と新庄から次第に目を逸らすことができなくなっていた。世代もルックスもバックボーンも、まるで異なる2人がその一点においてのみ重なって見えた」(財界さっぽろ2022年1月号より)
「どうしたらやる気になるのか」と聞かれると…
鈴木によれば、中日の監督に就任した1年目、落合は現有戦力で戦ったが、その年のオフ、「監督の仕事っていうのは、選手のクビをきることだ」と、若手を含めた多くの選手やメディアに情報を流していたコーチたちの首を非情に切った。
1年かけて、じっくり、どの選手が優勝するために必要か見極めていたというのだ。広岡がいっているように、自己パフォーマンスに忙しい新庄に、その根気と非情さがあるのか。
阪神時代、やる気の見えない新庄に野村監督が聞いた。「どうしたらやる気になるのか」。新庄は「4番にしてくれたらやる気が出ます」と答えた。野村は彼を4番に据え、新庄は期待に応えた。
「毎試合せかせかヒットを稼ぐようなバッティングをしていたら、『チャンスに強い新庄剛志』は生まれていなかった。短所は捨てて、長所にフォーカスするうちに、短所が短所じゃなくなっていたんだ」(『もう一度、プロ野球選手になる』)
この稿では新庄の人となりを論じるのが目的ではないが、これほどポジティブシンキングのできる男は、どのようにして育まれたのか、週刊文春(12月30日・1月6日合併号)を紹介してみよう。