「ドイツ企業は工場を閉鎖する可能性がある」

影響は徐々に出始めている。EU加盟国の企業の一部は中国の圧力を受け、リトアニア関連の製品の使用停止を検討しているという。

また在バルト諸国ドイツ商工会議所は今週、リトアニア政府に対して書簡を送付し、「リトアニアと中国の経済関係回復のため、建設的な解決法が提示されるのでなければ、ドイツ企業はリトアニアにおける工場を閉鎖する可能性がある」と通知したという。

中国だけではなくリトアニアにも、態度を改める余地があるというメッセージが、ドイツのビジネス界から発せられた意味は重い。

リトアニアにとって、国内で稼働するドイツ企業はまさに生命線といえる。そのドイツのビジネス界が中国側に回るとなれば、リトアニア経済は完全に身動きが取れなくなる。

欧州の企業に直接圧力をかけるという中国の手法は、EU加盟国間の分断を深く静かに進行させている。

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ここまで妨害活動をする中国の「焦り」

中国がここまでしてリトアニアへの妨害活動を行う理由はなにか。それは、台湾への接近を検討している他の諸国に対する「みせしめ」に他ならない。

リトアニアに続いて「台湾」代表処を開設し、台湾との関係強化を図ろうとする国が間違ってもこれ以上増えないよう、全力で阻止しようとしている。

リトアニアの動きを今止めなければ、「ひとつの中国」原則が、中国から遠く離れた欧州の小国をきっかけに突き崩されてしまいかねないというのが中国の焦りである。

このため、国際法違反も厭わずあらゆる手段を用いてリトアニアに圧力をかけ、台湾との関係構築を断念させようとしているのだろう。

EUは、代表処の開設や台湾との交流の深化は「ひとつの中国」原則の違反ではない、とするリトアニアを支持している。そもそもEUでも、現在のEUの事実上の代表部である「欧州経済通商台北弁事処」を、「EU駐台湾弁事処」へと改称する動きも出ているし、2021年秋に公表されたEUのアジア太平洋戦略でも、対台湾関係の構築には積極的な姿勢を見せていた。

一丸となって対抗する体制にはないEU

その一方で、リトアニア製品が中国の税関でブロックされ、中国が欧州域内の多国籍企業にリトアニア製品のボイコットを強要していることに対しては、EUとして有効な対抗策をとることができていない。

EUは、中国の一連の行動には明確なWTOルール違反がみられるとして、WTOへの提訴を検討中だが、WTOを通じた問題には多大な時間が必要とされる。

また、中国がこうした理不尽な経済的圧力をEUに対して行使してくる可能性を念頭に、かねてEUでは独自の「反強要措置(ACI)」の策定が進んでいたが、このACIの発動までにはまだ多くのEU内部の調整を必要とするうえ、WTOルールとACIの整合性については、EU内部でも慎重な声がある。

すなわち、EUが一丸となって中国の対リトアニア圧力に対抗しうる体制には程遠いのである。