「歴史のごみ箱にたたきこまれるだろう」
こうした一連の動きは、中国をいたく刺激した。
中国共産党系の新聞『環球時報』英語版は、リトアニアを非難する記事を日々更新している。小国のリトアニアは、米国の歓心を買いたいがために中国に歯向かい、台湾に接近しているというのが、その主な論調である。
また、高圧的な発言で知られる趙立堅外交部報道官は12月20日、「ひとつの中国」原則は「国際関係における基本的な規範であり、国際社会における普遍的コンセンサス」であると強調したうえで、それを尊重しないリトアニアは「歴史のゴミ箱にたたきこまれるだろう」と切り捨てている。
中国が行った報復措置の数々
中国のリトアニアに対する具体的な報復措置も次第にエスカレートしていった。8月には、駐中国リトアニア大使が中国側の要求で本国への帰任を余儀なくされた。
代表処の正式開設以降、駐リトアニア中国大使館は領事館レベルに格下げされたうえ、11月下旬以降はビザ発行などを含めた領事業務も停止された。
ほぼ同時期に、中国に輸出されたリトアニア製品が中国税関を通らなくなった。
そして12月中旬、それまで中国に踏みとどまっていたリトアニア外交官4名とその家族は、中国当局から外交特権の剝奪をちらつかされ、全員が中国から撤退した。
当面はリトアニアの外務本省からリモートで業務を行うという。外交官らへのこうした圧力は、外交官特権に関するウィーン条約にも違反している恐れがある。
リトアニアで製造・加工された製品は輸出を認めない
とはいえ、ここまでの段階では、リトアニアが実質的に被った被害は限定的であったといえる。そもそもリトアニアの対中貿易は同国の貿易全体の1%前後であり、中国との2国間貿易が滞っても、同国への経済全体に影響を及ぼすほどではなかった。
リトアニア大使館員の中国からの撤退にしろ、中国当局の厳しい監視と嫌がらせが続く中で、リトアニア人外交官らが中国で十分な外交活動ができる状況ではそもそもなかった。このまま中国にとどまれば拘束の危険もあり、引き上げはむしろ正解であったともいえる。
ただし、その後中国が採用した措置により、リトアニアはいよいよ窮地に追い込まれつつある。
中国は12月中旬以降、欧州諸国を中心とした多国籍企業に対し、リトアニアで製造・加工された製品を用いた場合には中国への輸出を認めないと通告したとされる。
リトアニアには、ドイツ、フランス、スウェーデンなどのEU加盟国の多国籍企業が多数活動しており、そのなかにはドイツの自動車部品大手コンチネンタルなども含まれる。同社はリトアニアの工場で、自動車の座席コントローラーなどの電子部品を製造し、中国にも輸出しているが、同社の製品も中国の税関を通過できない状況である。