アメリカで進む歴史の検証
そして、真珠湾攻撃五十年にあたる一九九一年十二月七日にアリゾナ記念館ビジター・センターで行われた記念式典において、ある問題が浮上して議論になりました。
式典の名称を「真珠湾攻撃(Pearl Harbor attack)五十年式典」とするのか、それとも「真珠湾五十年式典」とするのか、という議論です。問題になったのは、「攻撃(attack)」という言葉でした。
第二次世界大戦後の、ソ連を相手とした冷戦においては、日本はアメリカの同盟国です。その日本を非難するかのような式典名称はどうなのか、ということです。
特にハワイにおいては日系人たちが多数活躍していますから、日本を敵視するような名称の式典は控えるべきだろう、という議論が起きました。
五十年も経ったことだし、「攻撃」という言葉は外そうではないか、日本の「騙し討ち」を批判するのではなく、いついかなるときに外国から攻撃されるかもしれないことを念頭に置いた国防の重要性の理解を深める記念式典としてその趣旨を変更すべきだ、という議論が行われたのです。
式典は祝勝会…なぜ日本への恨み節は聞こえてこないのか
この真珠湾五十年式典に私も参加しましたが、真珠湾攻撃で生き残った軍人とその遺族の皆さんが参加した式典では「われわれは勝ったのだ」という祝勝会のようで、日本に対する恨みみたいな暗い影はほとんど見られませんでした。
結果として、式典の名称から「攻撃」という言葉は削られました。ジョージ・ブッシュ大統領の記念演説も、日本を批判する文言はなく、国防の重要性を強調するものとなっていました。
私が二〇一七年九月、久しぶりにアリゾナ記念館を訪問した時のことです。アリゾナ記念館ビジター・センターの展示担当者の説明を聞きながら歴史展示を見学したのですが、入り口に飾られていた一枚の解説板に特に目を引かれました。次のように記されていたのです。
《「迫りくる危機」アジアで対立が起きつつある。旧世界の秩序が変わりつつある。アメリカ合衆国と日本という二つの新興大国が、世界を舞台に主導的役割を取ろうと台頭してくる。両国ともに国益を推進しようとする。両国ともに戦争を避けることを望んでいる。両国が一連の行動をとり、それが真珠湾でぶつかることになる》(拙訳)