中央銀行の債務超過が「災厄」を招く

私が間近に迫っていると考える危機とはハイパーインフレだ。

「今、デフレ脱却が成功したか否かの時期なのに何を言うか」と思われる方がいるかもしれないが、デフレ/インフレとハイパーインフレは原因が異なる。

デフレ/インフレはモノやサービスの需給のギャップによって起こるが、ハイパーインフレは中央銀行の債務超過によって起こる。したがってデフレからハイパーインフレへと一晩のうちに変わってもおかしくない。

ハイパーインフレは中央銀行の破綻で起きる。元米財務省長官でハーバード大学学長をされたサマーズ氏が「インフレを起こそうと思えば簡単だ。中央銀行が信用を失えばよい」と発言したことがある。

中央銀行が信用を失う最たるものは債務超過だ、民間銀行でいえば倒産状態だ。

よく通貨は国力で決まると言われる。私も確かにそうとは思うが、それは「中央銀行が健全であるならば」という前提条件が成立している時の話に過ぎない。

どんなに国力が強くても中央銀行が債務超過になれば、その発行する通貨は紙くずだ。だから戦後のドイツは財務内容が劣悪になった中央銀行(ライヒスバンク)を廃し(=旧紙幣は紙くず)、健全財務の中央銀行(=ブンデスバンク)を作った。

これにより新中央銀行設立の前後でドイツの国力は全く変わらないのに健全な通貨を持つ国(=ハイパーインフレが収まる)へと生まれ変わった。

世界の中銀は利上げに向けて動き出したが…

日銀は、今、どういう状態か?

実務家の私が「日銀は廃せざるを得なくなるだろう」との論陣を張っていることをご存じの方も多いかと思うが、日銀危機説は私だけが唱えているわけではない。正統派の学者の先生方の中にも声をあげている方がいる。

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日銀バブルが日本を蝕む』(文春新書)は朝日新聞東京本社の特別報道部だった藤田知也氏が著した本だ。その中に今年2月に亡くなられた金融学者の池尾和人慶應義塾大学名誉教授の話が載っている。

「幾度か取材した中で、こうした警鐘を鳴らしていたのは、黒田日銀の金融政策に一貫して異を唱えてきた慶応大学教授(18年4月から立正大学教授)の池田和人だ。18年3月末、池尾に『何か打開策はあるでしょうか』と聞くと、こんなひと言が返ってきた。『妙案みたいなものは、もう簡単には見つかりません。『シートベルトを強く締めてください』と呼びかけたほうがいいかもしれませんね』」