自社ブランドを立ち上げECで販売した張大奕

モデルとして人気があった張大奕は、もともとウェイボーに数十万のフォロワーを抱えていた。しかし彼女が選んだのは、当時非常に流行していたライブ配信で歌や踊りを披露しておひねりを貰ったり、企業の商品を宣伝してギャラを稼いだりという方法ではなく、自分のファッションセンスとモデルとしての影響力を使って、自社ブランドの服や化粧品をつくってウェイボーで宣伝し、淘宝で売ることだった。

張大奕の店で売られる服は、海外の流行を巧みに「取り入れて」いたものの、非常に安価で若者でも手が届く範囲だった。幾度かにわたる商品そのもののデザインや宣伝用素材の盗用疑惑(その中には資生堂の洗顔料も含まれる)を乗り越え、彼女とビジネスパートナーのMCN(*2)「ルーハン(如涵)」は2019年4月に168人のKOLを抱える規模に成長して米ナスダックに上場を果たし、中国EC上場銘柄の新星と目された。

写真=iStock.com/Yongyuan Dai
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張大奕の成功は決してひとりで成されたものではない。それは彼女のビジネスパートナーがルーハンの株式の過半数を持っていることからも明らかだ。元々2014年に始めた店も、彼女が商品企画、ブランディングや宣伝を行い、注文の処理や物流、アフターサービスなどは、パートナーが請け負うかたちでの分業だった。

(*2)Multi Channel Networkの略称。KOLのマネジメントやECの運営を請け負う。「インフルエンサーのための芸能事務所」と説明されることが多い。

張大奕のスキャンダルが一因となり上場廃止を発表

独自ブランドの商品を企画し売ることは簡単ではない。単に仕入れて売るのと違い、商品企画、生産工場探しや原材料の手配、生産スケジュールや倉庫の管理から顧客向けアフターサービスまで、多くの付帯業務が発生する。

モデル出身の張大奕自身にこうした知識や経験があるわけもなく、それぞれの分野の専門家がチームを組んで業務を行うことになる。しかし、2020年11月、ルーハンは大きな転機を迎えることになった。上場して1年少々で、米ナスダックからの上場廃止を発表したのだ。

実は株価は上場以来ずっと低迷しており、日本語で言うところの「上場ゴール」であると揶揄やゆされるような状態だった。結局、株価は2021年2月の時点で上場初値と比べて、4分の1にまで落ちこんでいる。上場当時の株価が「劇的な伸びを見せる中国のEC市場」「KOL+ECという新しいビジネスモデル」という海外投資家による期待先行で膨らみすぎた面は否めない。

それでもここまで評価が下がった原因の一端は、張大奕個人のトラブルだった。

ルーハンという会社なしに、張大奕がここまでの成功を収めることはなかったことは事実だ。しかし、このナスダック上場会社のGMV(*3)総額の半分以上は、彼女1人が稼いだものであり、依存度が非常に高かった(図表1)。これは外部から度々指摘され、アニュアルレポート上にもリスクとして明記されている。そこに発生したのがスキャンダルだった。

(*3)Gross Merchandise Valueの略称。日本語では「流通取引総額」。そのプラットフォームを通して消費者が購入した商品の売上合計額を指す。マーケットプレイス型ECモールやフリマアプリなどのビジネスで用いられることが多い。プラットフォーム企業はGMVの一定割合を手数料として徴収することで自社売上とするので、プラットフォームの売上とGMVは一致しない。