話題となった夢を叶えるマンダラチャート
与太郎といえば落語の世界ではバカの代名詞ですが、私は今回、愚鈍とか、頭が悪いというマイナスの意味で言っているのでは決してありません。
大谷選手に感じる与太郎らしさのひとつ目は「愚直さ」です。
幼い頃から大リーグで、二刀流で活躍することを夢見ていた大谷選手でしたが、その夢を具現化したシートとして、高校時代に設定した「81マス」が話題になりました。
これは一番の目標を真ん中の「ドラフト1位指名・8球団」と置いた場合、それを達成させる8つの項目要素を、「身体作り」「コントロール」「キレ」「メンタル」「スピード160キロ」「人間性」「運」「変化球」とで、固めます。続いて「身体作り」ならその「身体作り」をコアにして「身体のケア」「サプリメントを飲む」「フロントスクワット90キロ」「柔軟性」などなどより具体化させた項目要素を同じように配置し、以下順次「コントロール」「キレ」などさらに「その目標を達成させるために必要なこと」でコーティングするように並べ、最終的には9個×9個の81マスで、一番の目標である「ドラフト1位指名・8球団」を埋め尽くすような図を作ります。
要するに、「夢」を「現実」にするためのチャートです。
談志は常々「現実が事実だ」と言い張り、「努力はバカに与えた夢」として、結果を伴わない自称するだけの努力を唾棄していましたが、大谷選手がすでに高校の時に作っていたチャートは現実問題として「できることを積み重ねて行って目標に到達するため」の地図であったように見えてきます。
愚直さで一気通貫する
「孝行糖」という落語があります。
与太郎がお上から「親孝行」を評価されて「青差し五貫文」というご褒美をもらいます。そんなご褒美なんか使い切ったらおしまいだと長屋の連中が集まって「親孝行でご褒美をもらったのだから、それにあやかって『孝行糖』という飴を、鳴り物と派手な衣装を身に着けさせて売らせよう」と与太郎にアドバイスします。売り声とコスプレが人気を呼び、「子どもにこの飴をなめさせたら親孝行になる」というような触れ込みとともの江戸の町で大人気になる……というような噺です。
オチは、「鳴り物禁止」の武家屋敷でやってしまいお役人から六尺棒で叩かれて泣いているところに「どことどこを叩かれた」と聞かれて「こーこーとー、こーこーとー(こことここ)」という、実にくだらないものです。
バカバカしい落語ですが、与太郎の「愚直さ」が「ヒット商品を開発した」と読み解いてみると、「日々の81マスのトレーニング」を「愚直」に完遂して夢をかなえた大谷選手と完全にかぶるのではないでしょうか?
この落語ではまず、与太郎はお上が想定した以上の親孝行を貫く「愚直さ」で「報奨金」をもらいます。そしてその「報奨金でこしらえたコスプレで売れ」というアドバイスを守る「愚直さ」と、「雨の日も風の日も売る」という「愚直さ」とで人気商品になり、オチでは叩かれて痛いはずなのにリアクション芸人のような「愚直さ」を貫くという万端「愚直さ」で一気通貫してしまうのです。
「愚直さ」を貫き目標を達成させてしまうという意味でいうと、やはり大谷選手も与太郎的なのであります。