「不確実性」はリモートで再現できない

【佐藤】不確実性とは、リアルだからこそ起こるある種の「事故」ですね。事故があるからこそ、新たな発見があり、新たな展開が起こりうる。確かにそういう不確実性は、リモートで再現するのは困難でしょう。

【斎藤】勉強だけではありません。例えば、これも不確実性に満ちた性関係を始めたり深めたりするのは、会わなければ不可能です。リモート飲みがイマイチつまらないのは、リアルな飲み会と違って二次会、三次会がないから、などと言われますけど、要はそこから偶有性や不確実性を埋めていくような関係性の発展が期待できないわけです。

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【佐藤】なるほど。そういう不確実な世界を決着なり発展なりさせるためには、面と向かって会って、関係性を持つ必要がある。

【斎藤】わざわざ会わなくてはならない理由は、そういうところにあるのではないでしょうか。単なるコミュニケーション、情報交換ならば、リモートで十分というか、場合によってはそちらの方が効率的なのかもしれません。

【佐藤】あえてうかがえば、ご指摘の「関係性」は、コミュニケーションとは違うということですね。

【斎藤】「情報のやり取り」という意味でのコミュニケーションとは、対義語に近いというのが、私の感覚です。情報伝達においては、むしろ現前性を捨てた方が効率的で、間違いも起こらないでしょう。

【佐藤】暴力性の強い人の発言を深読みしすぎて失敗するようなリスクも、減らすことができる。

【斎藤】そういうことです。

拘置所にいる時は、物欲が妙に強くなった

【佐藤】会うことの意味としてもう一つ指摘された「欲望」ですが、私自身の経験で言うと、拘置所にいる時は、物に対する執着がものすごく肥大化したことを覚えているんですよ。例えば、ボールペンの芯とかを購入するのが、嬉しくて仕方がない(笑)。持てるものが限られるからか、物欲が妙に強くなったのです。

【斎藤】獄中で欲望が高まる話は、自らの経験を描いた花輪和一さんの『刑務所の中』という漫画にも出てきますよね。銃マニアで、自宅に実弾なんかを置いていたのが見つかり、懲役刑を食らった漫画家です。刑務所内では、甘味に対する欲望がめちゃくちゃ亢進こうしんして、ここから出たらとにかく永遠に甘いものを食ってやるんだ、みたいな夢を持っている人が結構いた、という描写がありました。

【佐藤】土曜日の昼間の食事には、必ず汁粉かうずら豆の甘煮のような、極度に甘いものが出るのです。500グラムの白砂糖が売られていて、これも人気商品でした。

【斎藤】砂糖を買うんですか。

【佐藤】買って舐めている。囚人は、甘いものを食べていると満足するのです。